◆「ABC」の話

 「ABC」、これは英国で発行される定期航空の時刻表であり、「ABC WORLD ALWAYS GUIDE」をさす。しかし、使う場所が違うと、まったく違うものを表すことになる。

 国際線への移行訓練を終えていざ乗務し始めると、国際線のサービス内容がまったく異なるために戸惑う場面がふえてくる。そのひとつに「コックピット・ケア」があった。

 これは簡単にいうと、操縦室にいる機長、副操縦士、航空機関士に、食事や飲み物を持っていく(ケアする)というもので、飛行中の状況や到着地のインフォメーションなどもきいて、ほかの乗務員に知らせる役目もある。つまり、操縦室と客室の連絡係の様な役割も伴うことになる。

 国内線に乗務していたときは、アシスタント・パーサーがそれをしてくれていたので、スチュワーデスである自分に直接関ってくるという機会はなかった。しかし、国際線に乗務してまもなく、その役どころがまわってきた。

 飲み物のリクエストを聞くと、副操縦士が、
「ABCお願い」
といった。

「ABC」といえば私にはあの時刻表のことしか浮かばない。
なにか乗り継ぎのことでも調べたいのかと思い、なんのためらいもなくその時刻表が保管してある客室の一番後ろへすっとんでいった。

「これだ!」
そそくさとコックピットに戻り「ABC」を差し出すと、変な顔をされた。
「コーヒー、頼んだんだけど?」

 私の聞き間違えか?いやいやたしかに「ABC」といっていたはずだ・・・。
 とりあえずギャレーに戻り、先輩に聞いてみる。

「確かにそれもABCなんだけどね・・・」
といって苦笑された。
「それはね、アメリカン・ブラック・コーヒーの略なのよ。」

 頭文字をとってみる。American Black Coffee .......「ABC」
え!?時刻表じゃなかったの??

 とんだ「ABC」違いであった。

 航空用語は略して言うことが確かに多い。でも、飲み物まで略さなくでも・・・。

 とはいうものの、慣れとは恐ろしいものでそれ以来、「ABC」をなんの抵抗もなく使っていた私であった。

 

 

エッセイのメニューに戻る