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◆ お客様編 〜 小さなお客様
飛行機をご利用いただいているお客様の中には、勿論お子様もいらっしゃる。
地上研修でグランドホステスをしていたときも、珍しく小学生(しかも低学年)の団体をチェックインしたことがあった。
「キャビンを見渡して、今日は空いているなあ、と思ったけれどそうじゃないんだ」
その便のチーフが状況をチェックしにシップから降りてきたときに、チェックインの画面を見て苦笑していた。通常、大人ならば座席の背もたれのところに頭がくるのでその存在が確認できるけれど、子どもとなるとみんなシートに隠れて見えないのだという。
「え?小学生の団体だったんですか?ちょっと待ってください・・・」
航務課のお兄さんも慌ててオフィスでバランスの計算をし直しにいく始末。飛行機の一座席の重さは大人分で計算しているらしい。しかも、その便のお客様は6割弱。荷物も少なかったので、通常のウエイト&バランスの出し仕方ではだめなようだった。
子どもでも、いわゆる私たちが国内線で「アナカン」(UNACCOMPANIED
MINORS …
UM(アナカン・非同伴幼児))と呼んでいるお客様がいる。「一人旅」といわれたりもするけれど、だいたい小学校中学年から高学年までが対象となる。身内の人が空港で見送り、到着する現地で親族が出迎えに来ているので、保護者のいない間は地上職員と乗務員がケアすることになっている。
しかし、この「アナカン」にも結構いろいろなタイプがあるので面白い。
女の子の場合は比較的しっかりしている事が多く、特に妹や弟が一緒だったりすると、
「私はお姉さんなんだから」
という自覚が強いらしく、こちらとしてもほとんど手がかからない。
一方、難しいのは男の子のほうである。ちょうど反抗期にかかるせいもあるのだろうし、照れもあるせいか、こちら側としても接しにくい。最低限しか話さない子どももいるかと思えば、中には、
「ねえ、ねえ〜!」
と通路を通るたびに声をかけて来て、必要以上に手を焼くこともある。
(こういう声をかけてくるのは大阪発着便に多いような気がするのは気のせいだろうか。)
さて、夏休みを利用して田舎へ行くアナカンの数は、多いときになると20人くらいに及ぶこともある。彼らがアサインされる席はほぼ決まっているので(大抵は一番目と二番目のドアの間)、一般のお客様より先にまとまって案内することが多い。
その時もいつものようにとりあえずアサインされた座席に座らせて、諸注意をいくつか言って聞かせた。そして、
「トイレに行きたい人は?」
結構この項目は重要である。満席でしかもフライトタイムがあまりない時などに限って離陸のアナウンス中に、
「トイレ・・・」
なんて言われたら大変なことだし、何しろ本人が気の毒だ。ただでさえ緊張しているから、子どもによってはそれすら言えない場合だって想定できる。
しかし、そんなこちらの心配をよそに、
「さっきいったよう!!」
「(地上職員と)同じこといってる!」
とブーイングの嵐。でも、ここでめげずに子ども向けのお土産を配ったり、夏休み中に特別搭載になっているマンガなどを配って一段落。そうこうしているうちに一般のお客様はぞくぞくと搭乗している。アナカンたちを気にしながら通常の業務をこなしていく。
水平飛行後、飲み物とお菓子のサービスを終えてキャビンを回っていると、アナカン同志でちょっとしたいざこざが始まっていた。兄弟で喧嘩をすることはたまにあるけれど、結局、お兄ちゃんやお姉ちゃんが一歩譲って解決するパターンが多い。しかし、その時は違っていた。お互い初対面で、友達にもなっていない状況でのトラブルのようだ。
「どうしたの?」
声をかけて事情を聞いてみると、二人の男の子が一冊のマンガを取り合っていることがわかった。一人は半べそ状態になっている。私は慌てて、残っていたマンガを持って行って渡したものの、
「『サンデー』なんていらないよ、『マガジン』が見たいんだぁ・・・」
と言うし、その「マガジン」を取った男の子のほうは、しれっとして読みはじめている。片方の半べその男の子は、もう完全に泣き出していた。
私が困って、
「ねえ、読み終わったら見せてあげてくれないかなあ?」
そう言うと、
「やだよ、これ僕がとったんだもん」
という。どちらも取りつく島がない。そこへ、後ろの座席に座っていた女の子が身を乗り出してきて、
「スチュワーデスさんの言うことはきかなくちゃいけないのよっ!」
と、大声で叫びながら乱入し、状況を悪化させた。この場合、このような援護射撃は有り難くない。回りの子供たちを巻き込んで騒ぎが大きくなり、収拾がつかなくなることが怖かった。ちなみに彼女はこの二人の男の子の兄弟でも何でもない赤の他人である。
「うるさいなあ!」
と、強情になってマンガを読み続ける男の子。さらに大声で泣き続ける片方の子。
こうなるとキャビンの雰囲気は最悪である。大人たちの視線はいざこざを起こしている子どもにではなく、クルーである私に向けられるのだ。
「乗務員なんだから何とかしてくれないと!」
「乗務員のクセに子どものいざこざもおさめられないのか!」
そういうプレッシャーに似た空気も手伝って、余計に私の気持を焦らせる。こんなときのお客様の視線ほど痛いものはない。
とにかく、何とかこの状況を落着かせなければならなかった。
とりあえず、ギャレーに戻って「マガジン」が残っていないかどうか聞いてみることにした。
「ああ、出ちゃっているのよねえ・・・」
「困ったわねえ」
と、そこへキャビンを一回りしてきた後輩が入ってきた。
「あ、そういえばあそこのお客様が読んでいらしたかも・・・」
だいたいの場所を聞いてそのお客様のところへ行ってみる。すると・・・、ありました、「マガジン」が。しかもそのお客様の席はその子供たちの座っている三列ほど後ろの位置。
「恐れ入ります、お客様・・・」
私は事情を話してその「マガジン」を譲り受けた。お客様はけげんそうにしていたけれど、いくらマンガに夢中になっているとはいえ、あれだけ子供たちが騒いでいればいやでも様子は耳に入っているはず。ほかにも大人が読む雑誌は他にも沢山搭載されていたわけだし、ここは譲ってもらってもおかしくはないだろう。それに、この時期にマンガが特別搭載されているのはあくまでも「子ども向け」なのだ。(このことは搭乗時に口頭で案内していた。)
とにかく私はキャビンの雰囲気を一新すべく、泣いている男の子にその「マガジン」を持っていった。敗者復活戦のマウンドに立つような感じである。
「はい、これ・・・」
と私が差し出した途端、ひったくるようにしてマンガを読み始めた。
せめてお礼の一つでも言ってくれればいいのに。
だいたい我儘な子どもは基本的な挨拶ができないことが多い。自分中心に世界が回っていると思っているから、やってもらって当たり前、なのだ。
「だから子どもは・・・・」
と思い始めてハタと気づいた。何もこれは子どもだけではない。
大の大人だって似たようなことがあるではないか。
国際線で和食がなくなってしまっても、
「どうしても食べたい。ないとは何事だ!」
と激怒する方。
「『週刊ポスト』と『週刊現代』ね。後ゴルフ雑誌も。」
45分くらいしかないフライトタイムなのに、そんなに一度に読めるはずがない。だったら一誌だけにして他の人に譲ってあげればいいのに。結局シートポケットにそれらの雑誌を突っ込んだまま寝ているお客様とか。
「このお客様は大人のはずなんだけど・・・」
と思ってしまう場面が現場では結構あるものだ。
あのいざこざを起こしたアナカン達も大きくなったら聞き分けのない大人になってしまうのだろうか、と一抹の不安を覚え、
「スチュワーデスさんの言うことはきかなくちゃいけないのよっ!」
と大声で割って入ったあの女の子には「今どきのおばさん像」を重ね合わせつつ、ため息混じりにギャレーに戻った私であった。
キャビンの中には現在だけでなく未来の縮図までもが描かれているような気がした。
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