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◆ 出会いとすれ違い
思い掛けないところで知り合いに会う、そんな経験は誰にでもあると思う。
「こんにちは」
と声をかけられて、
ああ、この人は自分の知り合いだ、とすぐに分かれば問題はない。でも、いつもと違う場所でばったり遭うと、頭の中でちょっとしたパニックが起こる。
例えばお医者さん。特に歯医者さんなどは口と鼻をマスクで覆っている姿しか分からないので、声を掛けられても、
「この人だれ?」
になってしまい、
「この間の治療したところはどうですか」
などといわれて初めて分かる有り様。
看護婦さんが普段着で、などという場合も全くわからないことが多い。
やはり制服はその人の個性に何かベールのようなものをかぶせてしまう働きがあるような気がする。その上、職場とプライベートでは緊張感も違うことだし、恐らく顔つきも違っているのだろう。
思い起こしてみると、現役時代に銀座を歩いていると、どこかで会ったことのあるような人を見かける、ということがよくあった。
「知っているような人がいる、誰だったっけ・・・」
なんて思うと、
「ああ、この間仕事を一緒にした先輩だ!」
というパターンもしばしば。
逆にこちらが知っている人だと思って声を掛けることもある。
いつだったか初詣の時、地元の神社へ行った折りに近所の方を見かたので、いつものように挨拶をしていた。でもその中の一人(年配のおじさん)がどこの人だか思い出せない。軽く会釈も返してくれたから、人違いではないだろう。家に帰ってからも、
「誰だったっけ・・・」
と思い出せずにテレビのスイッチを入れると、なんとその人が画面に映っていた。
つまりその人はご近所さんではなくて男優さんだったのだ。
そういえば、会社でてっきり上司だと思って元気よく挨拶をしたら、チーフの制服を着た俳優の小林念侍さんだった、なんていうこともあった。このときは私だけでなく、ほとんどの人がその人と知らずに挨拶をしていて、すれ違ってから、
「あれ?」
とみんな気づく。さすが俳優さんである。
「思い掛けない人に遭う」といえばこんな経験がある。
それは国内線で松山に滞在した翌日のこと。松山から東京へ向かう機内でのことだった。
搭乗の際に座席をご案内した女性二人連れ(お母さんとその娘らしい)がとても親しく話しかけてくださる。確かに機会があれば、往復サービスさせていただくこともあるので、このときもそんなお客様の一組かと思っていた。でも私には心当たりがない。しかも、
「昨日はどうも・・・」
と搭乗の際に私に丁寧にご挨拶をしてくださった。昨日・・・?恐らく何か勘違いしていらっしゃるのだろう。
仕事が終わって後輩にその親子の話をした。私にはやはり全く覚えが無い、と。
「誰かと間違えられたんじゃないですか?」
後輩はそう言った後、あっ!と声をあげた。
「昨日、松山で会ったかもしれませんよ、その親子に」
と言いだした。
「ほら、道後温泉に行ったじゃないですか、そのとき・・・」
確かに温泉には行ったけれど・・・と思い起こしてみると、そういえばその親子とは、脱衣所とお風呂の中でたわいもない会話をしたのを思い出した。私はコンタクトをとっていたから二人の顔はよくわからなかったし覚えていないけれど、相手はよく覚えていたらしい。
「もしかして、私が話していたあの親子?;;」
「裸のご対面の方が先だったんですね」
そんなことがあってからというもの、
「どこかでお会いしたような気がするんですが・・・」
というお客様の問い掛けには、よほどの確信を持てないかぎりは曖昧にしまうことにしていた。まさか道後温泉と同じパターンはないにしても、どこでどんな形でお会いしているかどうか分からない。わかったところでこちらのサービスがしにくくても困るし。
そして仕事を離れてもたまに言われる。
「なんだか飛行機に乗ったときにサービスを受けたような気がする」
そんなときは、
「一日に多いときは何百人もの方にお会いする職場だったから、もしかしたらお会いしていたかもしれません」
と答えるようにしている。
よく「機内での出会い」が縁で・・・という話を聞く。
確かに会社勤めをしている方達に比べてみれば出会う人数はかなりのものになる。でもそんな中から「縁」と呼ばれるものをたぐり寄せるには、お互い、もしくは片方が強烈な印象を持っていないと成立はしないものなのだろう、と想像がつく。
当時の私は、もう少しそんな縁を信じて仕事をすべきだったかなとも思うけれど、今となっては後の祭りである。
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