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◆ 露出狂!?
「あのすみません!!」
お客様の搭乗が終わり、ギャレーで新聞の持ち回りの準備をしていると、いきなり女性が二人飛び込んできた。二十代前半のOLさんのような感じ。ただならぬ雰囲気である。
「はい、どうなさいました?」
私は反射的に答えた。
「隣の人が変なんです;;」
それを聞いて、とっさに急病人がでたのだと思った。
「連れの人が気分が悪くなって・・・」
そんなふうにして私たちに助けを求めるお客様は珍しくない。
ただ、二人でギャレーに来るというのはちょっとおかしい。こんなときは一人が病人の側に付き添っているとして、呼びに来るのは一人で十分。しかもコールボタンだってあるのに。とにかくそのお客様の状況を聞かなければ。
「露出狂なんです!」
病状を知らされると思っていた私には全く予想もしてなかった言葉が飛び出した。
「あの、どういうことでしょうか?」
思わず聞き返す。すると、女性二人は顔を見合わせてからゆっくりと、でもちょっといらだった声で言った。
「私たちの隣に座っている男の人が、『露出狂』なんですっ!」
飛行機で「露出狂」?
でも、機内でスチュワーデスに痴漢的な行為をするお客様がいるという話を聞いたばかりだったので、もしかしたらあり得ることかもしれない。とにかく気を取り直して彼女達の話を聞くことにした。
その女性達の隣(窓側)に座っている男性が、スラックスの前(社会の窓)を開いて見せるのだ、という。気持ちが悪くてこれから先、このような状態が続くようでは耐えられない。話す様子、その内容から不愉快きわまりない事は十分伝わってきた。
「とにかく、席を移動できませんか?」
彼女達は真剣に訴えていた。
座席の様子を見に行くと、その男性はすでに熟睡している様子。見たかぎりでは40代、ごくありふれたビジネスマン風。口は半開き、足はだらしなく開いたままで、女性達が指摘したように前のファスナーは開いている、という状態。
果たしてこの人が「露出狂」なのか。私にはようやく眠る時間を見つけた、いわゆる、
「働きすぎのビジネスマン」
にしか見えなかった。とはいえ、人は見かけによらないこともあるし、現場に居合わせなければなんとも確証がない。
それにしても彼女達が気の毒なので、まず移動できるように座席を探した。なるべく男性が近くにいないような席がいいのだろうか。
幸いその便は70%くらいの込み具合だったので、座席を探すのにさほど時間はかからずに済んだ。
「ありがとうございました」
女性二人はほっとした様子で席を移動した。
そういえばかつて、下校中の女子生徒が露出狂に遭う、という事件が地元の学校の付近で起こり、話題になったことを思い出した。私が中学二年の頃である。
友達のなかにも被害に遭い、なんと撃退(?)した、という人物がいた。
話によると、下校途中、目の前にコートを着た中年男性が立ちふさがったかと思うと、いきなりパッと前をはだけたそうだ。コートの中は全裸。多感な年頃の女子としては男性の全裸は見たくない。男子が女性の裸に興味を持つのとはわけが違う。しかし彼女いわく、
「ああいうのは自分のものを見せて女の子がキャアキャア言うのが嬉しいらしいのよ。だから、ひるんではだめなの」
で、どうやって撃退したのか、と聞くと、彼女は少し声のトーンを低くして言った。
「じっと見て・・・『小さいわね』って言ってやったわ!」
すると一目散に逃げてしまったのだそうだ。
「とにかくひるまないことよ!」
そう胸を張る彼女が大人びて見える一方で、ボーイフレンドができないことにも妙に
納得がいったことを覚えている。
当時の私は正に「ボーイッシュ」その物で、ちゃらちゃらしたのは大嫌い。服装によっては男の子に間違えられることもしばしば。だから、こういった痴漢騒ぎには全く
無縁で、浮いた話の一つもなかった。地域の陸上大会ではいきなり他校の女子に囲まれて、
「名前教えてください!」
などと言われたこともある。きっと宝塚の男役みたいなものだったのだろうと、今では都合のいいように美化して記憶にとどめている。
さて、問題の「露出狂」の容疑のかかったビジネスマン男性・・・。
とにかくその友達の言葉を思い出しながら、何があってもひるんではいけない、と気を取り直していると、彼がお手洗いの扉を開けるのが見えた。私は彼が席に戻るまで様子を見、タイ
ミングを見計らって毛布を持って回った。
「一枚もらえます?」
その男性に毛布を渡しながらスラックスをチェック・・・。閉まっている!
そして次にその座席を見たときには再び熟睡状態に戻っていた。今度は毛布をかけ、メガネも外していた。とりあえず、事の成り行きを上司に説明。女性達の「勘違い」ということで落着した。
思えばこの容疑をかけられた男性も気の毒である。ちょっとした気のゆるみから、「露出狂」のレッテルを貼られてしまったのだ。少なくともあの二人の女性にはそう思われている。そして、この旅行の思い出の不愉快なエッセンスとして思い出の一ページになってしまうのだ。
「ほら、あの『露出狂』がいた旅行!」
という具合に。知らぬは本人ばかりなり、である。
テレビである芸能人が、
「満員電車は両手を上げて乗りたいくらいですよ。うっかり近くに女性がいて、たまたま手の位置が悪かったりすると、あたかも痴漢に遭ったような感じでにらまれる。
しかも、満員電車だと身体の位置、まして手の位置なんてずらそうものならもう大変ですよ」
と言っていることがあった。
「なるほど、男性も大変ね」
そう思う一方、
「『痴漢に遭っている』と勘違いしたその女性も気の毒」
と思ってしまうのは私が女性だからなのだろうか。
一先ず、人から誤解されないようにしたい。
あらぬ疑いがお互いの不快につながるのは間違いないのだから。
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