|
◆ 新入社員
四月になるとビジネススーツが今一つ身体に馴染んでいない若者が街中に増える。
「新入社員か・・・」
その初々しさに季節を感じながら、自分が乗務していた頃の機内での出来事を思い出す。
あるとき、私の目の前の席にビジネススーツがまだぎこちない若者が三人座ったことがある。
窓の外の景色を見ているその姿は修学旅行の学生のように嬉しそう。聞けば、新入社員研修なのだとか。
羽田空港へアプローチが始まったころ、窓の外は夕暮れ、街の明かりも灯り始めていた。そんな中、きれいにライトアップした橋が見え始めた。
「あ、あの橋、俺達の会社が造ったんですよ!」
嬉しそうに話す彼らの様子を見て、自分が入社したときのことを思い出した。
自分が社会人になって、ちょっと大人になったような嬉しさ、そしてまだ一人前にもなっていないのに、
「うちの会社」
と言うときの優越感。あの時の気持ちを彼らは味わっているに違いなかった。
でも、そんな気持ちは社会人としていろいろな経験をすると変化していく。
それは普段、「ビジネス路線」とクルーから呼ばれている便を乗務するとわかる。
だんだん飛行機から見る風景を楽しむ余裕もなくなり、サービスが始まっても書類から目を離せない、中には疲れてずっと寝ているビジネスマンも。いずれにしてもゆったりとできるような状態ではないことはこちらからも見てとれる。そしてその独特な雰囲気の客室では、その邪魔にならないようにするのが精いっぱいの心遣い・・・などと思いつつ私たちはサービスするけれど、なかなか難しい。ご機嫌の悪い場合は不条理なことで怒られもする。
よくあるのが日本に帰着するビジネスクラス(エグゼクティブクラス)でのお食事のリクエストでの場面。
和食と洋食のチョイスの場合、どうしても和食の方にリクエストが偏りがちになる。でも、その時のお客様が洋食を選ぶ可能性を思えば、ほぼ半分半分に搭載されているのは仕方がない。結果としてお客様の希望に添えないこともある。ところが、
「和食ないの!和食!!」
と怒りだすのはだいたいビジネスマンの方が多いようだ。メニューには、
「数に限りがありますのでご希望に添えない場合もございます」
の但し書きがあるけれど、それを見ていらっしゃるのかどうかも定かでない。
「和食がないなんておかしいじゃないか!日本の航空会社だろうが!」
そうおっしゃられても、飛行機に搭載される食事の数は限られている。その限られた中でサービスしなければならないのが私たちの辛いところだ。でも、中には快く事情をわかっていただき、協力していただける方もいらっしゃるわけで・・・。
怒りだしたご本人も自分の気持ちに収拾がつかなくなるのか、収まるどころか駄々っ子のようになってしまうのがパターンのようである。
最終的には接客のプロの大先輩方が苦労をしてその場を収めるのが常になっていた。
「社会人って大人じゃなかった?海外へ出張に行くくらいのビジネスマンって、日本を代表するような人じゃないの?」
駄々をこねるビジネスマンを見ながら、これはきっとごくごく限られた人たちに違いない、と信じて仕事はしていたけれど。
街で見かける新入社員の姿を見るたびに、
「どうか大人の社会人になってくれますように」
日本の未来を思いつつ、自分のささやかな経験からそんなことを願ってしまう私である。
|