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◆スチュワーデスへの道 〜 地上研修・その3
東京行きの最終便でのこと。例の千歳で出迎えてくれた女性プロパー(
私の名字に「〜ちゃん」をつけて呼んだ)が責任者で、私ともう一人、短期グランドホステスの三人で仕事をしていた。
満席で、しかもA社と同発(同じ時刻に出発が予定されていること)。チェックインする私たちも、その航空券をチェックするプロパーもてんてこ舞いである。
「ちょっと!!誰、この航空券チェックインしたのは!!」
実はその航空券、A社券である上に割引きなどがあるため、その「A社」から裏書(*1)をもらわないとチェックインできないことになっている。
「あ、私です!すみません・・・」
明らかに私のミスだった。忙しさの余り、見落としていたのだ。
「なにやってんの!!!」
彼女のものすごい剣幕にチェックインで並んでいたお客様が一斉に私たちを見る。
どうしよう・・・。
彼女はまず、その航空券の持ち主であるお客様を呼びだした。
「申し訳ございません、こちらの手違いでして・・・」
とそのお客様に事情を説明している。とにかく裏書をもらって来ないことにはらちが明かないのだ。
「え!?じゃあこの飛行機に乗れないわけ??」
お客様の方も雲行きが怪しくなってくる。お客様に対しては丁寧に接客している彼女も私の方を見ると、
「だからちゃんとチェックするようにいったでしょう!?」
先ほどにも増して、その剣幕はすごいことになっている。言われている私もどうしたら良いのかわからず、ただおどおどするばかり。さすがのお客様も、
「まあまあ・・・」
と女性プロパーをなだめだした。
「裏書もらってきます!」
私にできるのはこれだけだった。すんなりともらえるはずがないのだけれど。
私はその航空券をもってA社のカウンターへ走った。
「すみません・・・」
事情を話して裏書をいただきたいことを言うと、
「ああ、これはだめですね。このお客様がこのままうちに乗ってもらえばいいんですけど。」
万事休す。時計を見ると飛行機が出発する予定時刻までに後五分くらいしかない。しかたなくラウンジに戻ってそのことをプロパーに言うと、
「もういいから、P.T.S.(*2)書いて!!」
為す術のない私は言われるままに仕事を続ける。
「○○便、オンスケアウト(*3)・・・」
可搬(トランシーバーのようなもの)からランプコーディネーターの声。
こうしてどうにかこうにか最終便は出発した。お客様は裏書がないまま飛行機に乗ったようだった。
それにしてもどうしよう、あの航空券。何かペナルティーが取られてしまうのか?がっくり肩を落としてオフィスへ向かうと、
「○○ちゃん!」
と女性プロパーがさっきとは打って変った穏やかな声で私に声をかけた。
でも、ホッとするのはまだ早い。さっきの剣幕からしても、急に優しくなるなんて余
りにも不自然すぎる。嵐の前の静けさ、ということだってあるし。
「本当に申し訳ございませんでしたっ!」
深々と頭を下げてそういうしか私には他に方法がなかった。すると、
「裏書、もらってきたよ〜ん!」
さっきの怒鳴り声はなんだったのか。すっかり拍子抜けしてしまった。
おそらくさっきは怒鳴りでもしないとあの場はおさまらなかったのだろう。それにしても、あれが演技だったとしたら大したものである。でも、とりあえず
問題は解決した。
「ミスったんだって?」
ホッとしたのもつかの間、あの一年先輩の男性プロパーAが話を聞きつけて、したり顔でやって来た。
「はい・・・」
「しょうがねえなあ」
慰めるどころかおちょくりに来たのである。その顔には、
「羽田で少し仕事したことがあるからって図に乗るんじゃないよ」
という風に書かれているように見えた。
しかし、そんな彼も私に見せたくない失敗をこの数週間後してしまう。
それは、新人の短期グランドホステスがやって来てからのことだった。私はとりあえず彼女達の先輩という形で仕事を教えたり、サポートしたりしていた。その日、ラウンジの責任者を任されたA先輩は、私と新入りの短期グランドホステス、
そしてベテランの男性プロパーと組んで仕事をするように言われた。つまり、A先輩が本当の責任者になるための現場での訓練、O.J.T.である。
始めは確かに順調だった。しかし、その日の最後の仕事で、チェックインした航空券と搭乗券の半券の数が合わないという事態が起こった。これはいわゆる
「旅客不一致」と言うもので、このままだと飛行機は出発することができない。というのは、例えばチェックインだけして本人は乗らずに爆弾の入った荷物だけ飛行機に積まれているなどの可能性があるので、機長は出発をしないことになる。一言で言ってしまえば「保安上の問題から」ということである。
こういうときの原因は様々だが、だいたいチケットをチェックし忘れているか、チェックインした後の座席がお客様に気に入ってもらえないために、それをキャンセルして新たにとり直すときに発生する事が多い。
その不一致の状態が起きたときに、私はお客様のチェックインをしていた
。
「あれ?」
という先輩の声とともに、
「どうした?」
という男性プロパーの声。
私はその雰囲気から何かが起こったことを察知した。しかし、私にできることは着実にチェックインをすること。それに自分がこれまでにチェックインした航空券に関しては絶対の自信があった。座席のキャンセルもしていなかったし。しかし
、二人のプロパーの焦りは次第にエスカレートしていく。私の言葉も届かないくらいに。お客様の搭乗は終わってしまっているし、出発の時刻は迫っている。まさに切羽詰まっ
ている状態。こんなときにラウンジの責任者の手腕が問われるところである。
「ちょっと待て、落着いて。もう一度半券をカウントしてみよう・・・」
一年先輩が半券をカウントし直し、もう一人の男性プロパーはオフィスに電話するべく受話器を片手に持ち、もう片方の手は可搬を握り締めていた。ほとんどパニック状態といっていいほど二人して舞い上がっている。こうなると不思議とこちらとしては冷めてしまうもので、かなり冷静にその状況を見る傍ら、新入りの短期グランドホステスのチェックインした半券などをもう一度見直していた。
「あ・・・・ 」
私はその原因を目の当たりにした。やはり新人がキャンセルした座席の処理を、きっちりしていなかったのだ。
竜巻のようになっている男性プロパー二人にその搭乗券を渡すと一気に状況は沈静化した。一年先輩はホッとした様子でP.T.S.をシップサイド(飛行機の入り口)までもっていった。
「しかし、○○ちゃん(私のこと)は冷静だよなあ〜!」
男性プロパーのこのお言葉とともに、この事件はその日のうちに旅客課へ広まったのだった。
そんなことがあってからというもの、以前のような意地悪さはなくなったものの、何かがあるたびにそのA先輩は、冗談半分に、
「おまえ、俺のことバカにしてないか?」
が口癖となった。
「いえいえ、とんでもございません!」
私はそう答えることにしていたけれど、つい、私も冗談交じりに、
「ええ」
と言ってしまうこともしばしばだった。
最後までこのA先輩の負けず嫌いは相変わらずだったし、私もそれには負けていなかった。しかし、唯一彼が仕事の終わりに恒例にしていたことには、私も喜んで参加していた(東京行きの最終便のチェックインだけに限られていたけれど)。
それは、お客様の搭乗が終わり、飛行機のドアが閉まるころになると、
「おい、みんな行くぞ!」
そう言って待合室から見える飛行機に向かって私たちに整列するように促し、手を振るのだった。また、その様子に気がついたキャプテンは手を振ってくれたり、中には飛行機のライトをフラッシングさせて私たちに合図してくれたりもした。
普段接することのない乗務員の人達とコミニュケーションができているみたいで嬉しかった。と同時に、
「自分たちがこの飛行機を送り出すんだ」
と言う満足感が、自分と空との距離を少し縮めていくような気がした。
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*1「裏書」・・・ENDORSEMENTともいう。運送の権利を譲渡するために
、航空会社間で行われる航空券の裏書のこと。
*2「P.T.S.」・・・「Passenger Traffic
Summary」の略B乗客の数などの情報を記載し、チーフパーサーへ渡す。
*3「オンスケアウト」・・・「On Schedule
Out」の略。定刻通りに出発したことをいう。
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