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◆ 地上研修 〜 帰省 10月に入って試用期間もめでたく終了し、大手を振って有給休暇をもらえる身分になった。東京出身の訓練生がそうするように、私もさっそく帰省することにした。通常のお休みに有給休暇を付けて、とりあえず一週間ほどの休暇をもらう。 千歳での生活もようやくリズムが出てきたところだったけれど、とにかく東京へ戻れることの嬉しさのほうが強かった。実のところ、休日の過ごし方がパターン化してきたので、残りの仕事をきちんとこなすためにも自分なりの気分転換が必要だった。気分がマンネリ化してしまう時こそ何か失敗をしてしまうような気もしていたし。申し訳ない話だけれど、親の顔が見られる、というよりはとにかく何か「普段とは違った空気」を吸いたくて仕方がなかった。 勤務最終日、その日は早番ということもあって、最終便で東京へ向かうことにした。機種はボーイング747−SR(Short Rangeの略)。 搭乗が始まると、あっという間にお客様はボーディング・ブリッジへ吸い込まれていく。客況はかなり少ないようだ。最後に私がShip(飛行機)へ向かうと、ドア・サイドには搭載の人やランプ・コーディネーターさんが立っていた。いつもなら私も彼らと一緒に飛行機を見送るのだけれど、今日は見送られる側である。 機内に乗り込むと、見慣れた男性チーフ・パーサーが立っていた。仕事で「P.T.S.(*1)」をShipサイドへ届けるときに何度か顔を合わせたことのあるチーフだった。 私の頭の中は、およそ3ヶ月ぶりで帰る東京の事で頭が一杯だった。誰に会おうか、久しぶりに買い物にも行きたいし・・・。機内でのサービスを受けながら、私はそんなことばかりを考えていた。すると、 キャビンは最終便で夜、ということもあり、静まりかえっている。その静寂を私が乱しているような気がして、気が重かった。幸い、お客様が少ないことと、私の座っている窓側の席は孤立したようにまわりにお客様が座っていなかった事で救われていた。 その「大学の先輩」はゆっくりと私の方へ歩いてきて、通路に腰を落として、目線を私より下にした。私はすっかり恐縮してしまった。大学の先輩とはいえ、初対面である。仕事の合間に、私の意志ではないと言っても呼び出してしまった形には変わりはない。お仕事中に申し訳ありません、というと それからしばらくしてからベルトサインが点灯し、機内の照明が少し暗くなった。窓の下は街の明かりだろうか、その数はだんだん増えていく。そして、禁煙のサイン(*2)がつく頃には東京湾にある工場群のライトが目立ち始め、着陸が近いことを知らせていた。 「皆様、当機はただいま羽田、東京国際空港に着陸いたしました・・・」 チーフのアナウンスが流れて、ドアが開いた。 そういえば、そのチーフの所属するグループは通称、 天国があるということはその反対の「地獄」があるのかしら、とその当時は漠然と思っていた。しかし、本当に「地獄の・・・」が存在することを知ったのは、もっと後になってからだけれど、これはまた別の話である。 ______________________________________ *1「P.T.S.」:「passenger traffic summary」の略。乗客の数などの情報を記載し、チーフパーサーへ渡す。 *2 「禁煙のサイン」:現在では全席禁煙だが、当時はまだ喫煙席が存在していた。
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