|
◆ 人に見られる職業ゆえの 〜 手の話 仕事先のホテルから空港へ向かうバスの中で、おもむろにショルダーバックから出す物がある。これは恐らく、クルーならほとんど「常備品」として持ち歩いているものだと思う。 お化粧がどんなに上手(?)で、制服を格好良く着こなしていても、 さて、手がきれいになったところで、マニキュアを塗っていなければお話にならない。 私はマニキュアをする習慣がなかったので、苦労したうちのひとり。まず、制服が濃紺なので「似合う色」はある程度決まってくる。しかし、決して「ショッキングピンク」や「ワインレッド」ではいけない。あくまでも、制服とマッチしているけれど、手だけ際立ってはいけないのだ。本来、マニキュアは手をきれいに見せるための、いわば「手の化粧」なので、私としてはちょっと暗めの色、たとえば先ほどの「ワインレッド」などはいいのではないか、と思う。しかし、訓練所の教官いわく、 そのようなわけで、マニキュアの色は「控えめな色」を選ぶ。が、またここで初心者の私に問題が・・・。それは「きれいに塗れない」。何しろ塗り方をマニュアル通りにしたところで、慣れていないからはみ出たりする。しかも、最初に買ったマット(パールが入っていない)ピンクは塗り終わった時点でムラがでてしまい、これなら何もしないほうがまし、という結果に終わった。 「それならこれがお薦め」 次に薦められたのはパール入りのもの。 このように、先輩のアドバイスを受けながらマニキュアをするのが苦にならなくなった。とはいうものの、休日にマニキュアをとっていて、仕事当日に慌ててつ塗る、などということもある。 ある日、特別便路線を乗務するので、空港までタクシーで行くことがあった。たいてい「特路」と呼ばれるこの乗務は、ニューヨーク、ロンドンなど、いわゆる「直行便」。業務内容も盛りだくさんなので、この仕事の前日は緊張で熟睡できたためしがない。しかも、仕事の途中(機内)で休みはもらえるけれど、だいたいそんなときは寝られないことが多い。だから、私はタクシーに乗り込むなり、とりあえず寝る体制に入る事にしていた。 その日は運良く会社につくまでに眠ることができた。 マニキュアが乾いたかどうか見極めるのは今もって自信がないけれど、ただ一つ言えることは、 指先に色が入ると、気持も華やぐし、自然と身だしなみに注意をするようになる。制服を着ていた頃は、「乗務員として人に見られる」事を意識しての半ば強制的なマニキュアだった。でも、仕事を離れた今ではそれを楽しむことができる。しかも、今までのように見られるのではなく、「人に見せるため」に。 飛行機に乗客としてサービスを受けるとき、やはり手元に目がいってしまう。そして、手入れが行き届いたその指に、きれいにマニキュアが塗られているのを見ると、つい嬉しくなってしまう私である。
|