◆ とりあえず、ハワイ 〜 初めての海外・その4

眠る。そう一言で言うのは簡単だけれど、緊張のために神経が高ぶっている私はすんなりその状態に入れるはずがなかった。この飛行機を降りてしまえばそこはアメリカ。日本人がどんなにいても異国の地。
「Hello!」
といわれれば、
「ハロー」
と応えなければならない。

静まり返った機内。エンジンの音だけが響き、時折ギャレーから物音がする。
「ガタガタ・・・」
カートが通路を通る。
「ドンッ・・・」
という鈍い音とともに、
「いてぇっ!」
という男性の声。すかさず、
「申し訳ございません・・・」
とスチュワーデスの声。彼女の押していたカートがお客様の足にぶつかったらしい。

「人が気持ち良く寝てるところへガツンやろ、あれ本当たまらんわ。ほんまに痛いんやで::」
カートに激突されたことのあるある芸能人がそんなことをテレビで話していたのを思い出した。

カートを移動しているスチュワーデスは再三の注意を払っているのだけれど、このように機内が暗いと、通路に投げ出されている足などは見えないのが当たり前のような気もする。カートをぶつけられたお客様を気の毒に思う反面、そんなことを思っていた。やはり機内でのスチュワーデスの姿は客観的に見ているようでも、事情がわかるだけについつい主観が入ってしまう。

それにしても何故、こんな暗い機内でそんなにしてまでカートを移動させなければならないのか。(その答えは実際私が国際線を乗務するようになればわかることなのだけれど。)そんなことを思い巡らせていると、おかげでますます眠ることなどできない。

私は眠るのを諦めて読書灯をつけ、「地球の歩き方〜ハワイ編」をバックから引っ張り出した。そして、とりあえずホテルに辿り着くまでの事を頭の中でシュミレーションしてみる。

飛行機を降りて、入国検査、税関を通って到着ロビーへ。そこからタクシーに乗ってホテルへ。

団体旅行客なら添乗員さんとはぐれさえしなければ大丈夫だろうし、もしいなくても懇切丁寧な小冊子などが手元にあって、到着ロビーには現地コーディネーターのお出迎えが待っているはず。そして少なくとも入国に必要な書類はすでに書き込まれているのだろう。

その点、私はインディビ(「インディビジュアル」"individual"の略。個人旅行客のこと)。すべて自分でしなければならない。例え、タクシーでぼったくられようと、それは自分の責任、自分で対処しなければならない。まさか樽の上で踊らされるようなことはないと思うのだけれど。
「全く何をおどおどしているんだか・・・」
三ヶ月後の私が笑っているような気がした。

「皆様、おはようございます!」
ガイドブックを開いたままいつの間にか眠ってしまった私は、妙にさわやかなアナウンスと、機内の照明が明るくなったのとで目が覚めた。

「おしぼりでございます!」
ハイテンションなスチュワーデスがサービスを始める。後五分くらい寝かせてくれてもいいようなものなのに。

「ジュースはいかがですか?」
思わず手に取ったのはグアバジュース。これこれ、最初のリカーサービスのときに私が飲みたかったのはこれだったのよ;;

次に出されたのはオープンサンドイッチ。そのプレートの乗ったトレイの大きさは先ほどの半分。そして、コーヒー、紅茶、日本茶をそれぞれ持ったスチュワーデス達が機内をサービスしてまわっている。

テーブルに出されたものを口に運ぶ。頭がぼーっとしている私はそれをただ機械的にしているような感じだった。ハワイ、ホノルル時間では朝かもしれないけれど、日本時間ではまだ夜中の三時くらい。いつもなら、丁度よく眠っているくらいの時間ではないか。(早朝便乗務の時は後一時間程で起きなければならない時間だけれど。)

待てよ、これが時差というものか?このぼーっとしたのがもしかしてずっと滞在中続いてしまうわけ??

「お済みでしたらお下げいたします・・・」
「あ、ごちそうさまでした」
トレイを下げてもらって、念のために記入した書類を確認。あとは到着を待つのみ。でも、到着までにまだ一時間以上ある。

ふと外を見ると、眼下には真っ青な海が広がっている。マリンスポーツが好きな人たちは、もうこのあたりからワクワクしているのだろう。文科系の私にはとんと縁のないスポーツだ。でも、今回はせっかくだからシュノーケリングくらいはするかもしれない。それくらいしなければハワイに来たことにならないだろうし。

機内では免税品の販売が終了し、到着地ホノルルのお天気や気温などがアナウンスされていた。そんな中、私はまたうつらうつらし始める。そしてそのまま飛行機が着陸態勢に入リ、ベルトサインが点いたことにも気が付かなかった。

私が次に目を覚ましたのは、
「ドスッ」
そんな振動とともに飛行機が着陸した時だった。
「皆様、ただいまホノルル空港に到着いたしました・・・」
そんなアナウンスのバックにはハワイアンの音楽が流れている。
「とうとう着いてしまった」
これからのことを考えると、そんな気持だった。とにかくホテルに辿り着き、同期が到着するまでのおよそ丸一日半を一人で過ごさなければならない。

「ありがとうございました」
そんなスチュワーデス達の声を聞きながら飛行機を降りた私は、正に大海に小舟で漕ぎだすような、そんな気持だった。

 

その5に続く・・・。

 

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