◆ とりあえず、ハワイ 〜 初めての海外・その5

入国審査を終え、荷物をピック・アップし、税関を通って到着ロビーへ。
ここまでは頭の中でシュミレーションしていた通りのことだったので、さほど慌てることはなかった。

出迎えの人たちのアロハ姿。中にはレイをかけてもらっている人もいる。そして何よりも冷房のきついこと。そんな人々がざわめくロビーを通過し、空港の建物からとりあえず一歩外へ出る。

そこは正に南国。建物の影と日差しのコントラストが一際くっきりとしている。沖縄に降り立った時とは全く違い、湿気がないせいかその暑さを不快に感じることはない。日本の六月の「梅雨」からは想像できないほど空は晴れ渡リ、空気もカラッとしている。

しかし、そんな雰囲気にばかりに浸ってはいられない。お上りさん丸出しの行動は思わぬ災いを招きかねないだろうし。とにかく、ホテルの部屋には入るまでは気を抜けない。

幸い、タクシー乗り場はすぐに見つかった。
タクシーと言っても大きな外車。都内を流して走っているドギツイ色のそれとは全く違い、ぱっと見たかぎりではそれがタクシーなのか自家用車なのかよくわからないほど。私は宿泊先のホテルを告げると、タクシーに乗るためにドアの前に立った。
「?」
いつものようにドアが開かない。
私のような日本人が多いのか、褐色の肌をした中年のドライバーは、トランクに私の荷物を入れた後、ニヤッと笑ってドアを開けてくれた。自動でドアが開くなんて日本のタクシーだけ。その時初めて知った。

少し気まずい思いを残しながら、タクシーは空港を後にした。ドライバーが何か話しかけてくれたけれど、よくわからない。
「ハワイへ来るのは初めてなんです」
とりあえずそう言ってごまかしてしまった。

窓の外は夏のような日差し。建物の向こう側には真っ青な海が見える。空も青く、雲は白い。

何となく緊張がほぐれてきた。この天候のせいだろう。もしどんよりと雲り、まして雨でも降っていようなら、とてもこんな気持にはなれなかっただろう。

ワイキキビーチの付近になると、観光客らしき人たちがぞろぞろと通りを歩いているのが見えてきた。と信号待ちをしていると、日本では絶対着られないだろうな、というド派手なアロハを来た日本人高齢者のご一行が目を引いた。全員が荷物をたすき掛けにしてみんな同じ方向に歩いていく。これから買い物に行くのか、それともランチを食べに行くのか。注意してみると、みんな同じマークのバッヂをつけ、旗を持った添乗員さんらしい人が先頭に立っている。見るからに「観光気分満喫」のそのご一行は楽しげに歩いていった。

ようやく強い日差しにも慣れてきたころ、タクシーが止まり、ドライバーが運転席を離れた。ホテルに着いたらしい。あ、チップはどれくらい払えばよかったんだっけ??それよりもチップ用の小銭がない;;
仕方なく普通にタクシー代を払ってお釣りを貰い、その中からチップを改めて渡した。
「Thank you」
とりあえず間違ってはいなかったらしい。チップが少ないと言われることもなかったし。

予約をしていたホテルは、クルー達が宿泊しているところだった。つまり、ロビーでみかける制服姿の彼女達は、これからの自分の姿だった。

チェック・インを終え、ようやくホテルの一室へ。
日本のホテルの部屋に比べて大きなスペースにベッドが二つ。さっそくカーテンのかかっている窓から外を見てみる。
「あ;;」
そこから見えたのはホテルの裏側。別館の建物のベランダが見える。一体海はどこに??

雑誌などに載っているホテルの窓の風景を想像していた私は、すっかりがっかりモード。世の中そんなに甘くはない。そんな現実を目の当たりにしたせいか、ドッと眠気が襲ってきた。とりあえず仮眠をとってから行動することにしよう。頭がぼうっとしたまま外に出ても、ろくなことがなさそうだし。

お腹がすいて目が覚めた。時計を見るともう16時になろうとしている。
夕食をとるにしても時間が中途半端。とにかく身支度をして外に出てみよう。

ホテルから一歩出ると色々なお店が立ち並んでいた。勿論、圧倒的にお土産関連のものを扱っているお店が多い。そんな中、ハンバーガーショップを見つけたので、まずはそこで腹ごしらえをすることにした。日本では見かけないお店だったけれど、ハンバーガーならさほど当たり外れはないだろう。
日本の、
「いらっしゃいませ〜!」
とニコニコと話しかけてくる店員をイメージしていた私は、それが当たり前でないことをここで思い知らされる。

私の三人先に日本人のカップルが並んでいた。彼らの番になって、オーダーを聞かれている。しかし、
「どうする?これ何かな?」
二人でさっさと決められないらしく、待っている店員もイラついているのがわかった。カウンターに置いている指先が時を刻むかのようにコツコツと一定の速度で音を立てている。日本なら店員のそんな露骨な態度はクレーム物だろうし、それ以前にこのカップルはこんな躊躇することなく、オーダーできているだろう。

「Next !!」
時間切れを告げるかのように、語調厳しくその店員は次のお客のオーダーをとり始めた。そっか、ぐずぐずしているとこうなるのね。こわいなあ;;
こうして私の番になり、慌ててオーダー。店頭のポスターにはお薦めのハンバーガーが美味しそうな写真とともに紹介されていたけれど、到底それがどんなハンバーガーの名前かなんてチェックしている暇もなかった。

結局私のトレイには、普通のハンバーガーとコーラとフライドポテトがのせられた。(でも、ポテトは英語だと「フレンチ・フライ」という名称になることをメニューを見てこのとき知った;;)
唯一自己主張ができたのはコーラとポテトのサイズだけ。お味の方は、何とも・・・、とにかくハンバーガーといえども当たり外れがあることがわかったことをお伝えしておこう。

食べ始めてしばらくすると、私の座ったテーブルの近くにその店員達が制服を着たまま三人座ってジュースを飲みながら話し始めた。心なしかこちらの方をちらちら見ながら、笑っている。被害妄想かもしれないけれど、こんな些細なことで私自身がよそ者であることを自覚せざるを得なかった場面だった。

お店を出て、アクセサリーを見たり、Tシャツを見たり。くだらない買い物をしたものの、どういうわけかそんなときの英語は何の問題もなく、店の人の対応も先ほどのように気になることもなかった。やはり、買い物となると俄然女性は強くなることを身をもって証明したわけである。

さて、時計を見ると夕食をとってもいいような時間になっていた。と言っても、日本でしているように一人でレストランへ行くことは気が引けた。やはり日本と違うシステムの中で食事をするのは、緊張する分、消化にも良くなさそうだった。

とにかく部屋で何か食べられるものを探しに、「ABCストア」へ入った。
とりあえず、飲み物、と思ったら何とおにぎりがある。カットしたパイナップルも売っている。なんて日本人向けのお店なのだろう。
レジで会計をしようと、品物を店員の前に並べると、
「これは、あんたのディナーかい?」
とニヤニヤしながらレジ打ちの兄ちゃんが言った。(「お兄さん」でもいいのだけれど、雰囲気はどうしても「兄ちゃん」の方がぴったりする。)

私は何となくバカにされたような気がして、
「そうよ」
とぶっきらぼうに答えた。ただでさえ、ハワイに来て日本食を口にするのを後ろめたく思っているのに、それを指摘されたように思ってしまったのだった。

実は、日本人クルーの中では、時差がきついため、このお店でよくおにぎりなどを買って部屋でご飯を済ませていた人たちがいた。つまり、レジの兄ちゃんは私を常連さんのクルーだと思って、話しかけてくれたらしかった。最も、それがわかったのは自分が国際線を乗務し始めてからなので、この時はそんな想像すらできなかったのだけれど。

夜になってもホテル周辺の活気は衰えることがなかった。その中庭ではショーをやっているらしく、ハワイアンのゆったりとした音色がロビーに響き渡っている。こんな雰囲気の中でお酒でも飲んだらさぞかしいい気持だろう。しかし私は下戸。とてもそんなことができる状態ではないし、少なくともそう言う楽しみ方は同期が到着してからのことになるだろう。

部屋に戻っておにぎりを食べ、シャワーを浴びて寝る支度をする。体が疲れた、というよりも気疲れした一日だった。

「ダン!ダン!ダンッ!!」
その翌朝、凄まじいノックの音で私はたたき起こされた。

 

その6に続く・・・

 

エッセイのメニューに戻る