◆コタロウ・フライト

 私が入社して数ヶ月後のある日、千歳空港で地上研修をしていた頃の話である。

 ゲート内のチェックインカウンターで仕事をしていると、いつものように出発時刻の確認や、整備さんたちのやり取りなどが可搬から聞こえてきた。通常だと「ボーディングは何分から」や、バランスの状態などがわかり、それをモニターしながら業務にあったっている。しかし、この日は少し様子が違っていた。

「えー、模様は黒と白で....」

少し焦り気味の声がただ事ではない、ということを知らせていた。どうも何か大切なものがなくなって、それを捜しているらしい。とはいうものの、直接の担当の仕事ではなかったので聞き流していた。

 仕事が終わり、寮に帰って夕食をとっていると、遅番が帰ってきた。

「今日はたいへんだった....。」

 話はその「黒と白の模様のなにか」についてだった。聞いてみると、羽田からお預りしたペット(猫)が千歳へ着いてみたら行方不明、というのである。どうもペット用の檻の鍵がきちんとかかっていなかったらしい。

「貨物室を捜したらしいんだけれど、ぜんぜん出てこなくて。機長の許可が下りてまた羽田に戻ったんだけれど、どこにいったのかしね...。」

 お気の毒なのはその猫を預けたお客様である。到着ロビーで激怒どころか号泣していらしたという。

 聞くところによると、いわゆる和製ネコで黒と白の模様、名前は「コタロウ」。私の頭の中では、きゃしゃで品のいいネコを想像していた。

 通常、飛行時の外気温度は-50度くらいまでになる場合があるという。羽田 - 千歳間、約1時間20分。貨物室はどう考えても零下である。

 そのなかでそんな和製ネコが耐えられるのだろうか?万が一ということも考えられる。しかし、羽田でマタタビまでまいて出てこなかった、ということなので、ひょっとしたら貨物室が開いたときに滑走路へ逃げたのかもしれない。さまざまな憶測が私たちの間でとびかった。

 そんなことがあって数日後、ラジオのFM放送を聞いていると、
「ネコのコタロウが...」
ときこえてきた。

 なんと、ラジオのニュース(といってもローカルな話題を面白おかしく紹介するコーナー)になっていたのだ。

 それを伝えるアナウンサーの口調もほのぼのしたもので、
「無事にもどれてよかったね、コタロウくん...」
なんていっている。
とにかく猫は無事だったようで安心した。

 出社して様子を聞いてみると、このコタロウくん、すごい旅行だったらしい。

 羽田からはじまって千歳を往復したあと、大阪へ。そしてグアムへの往路の際、お客様から変なにおいがする、というクレームがあったので調べてみた。すると貨物室と客室の間から光る二つの目があった、というのだ。

 結局、そこで彼は無事保護され、また大阪経由で羽田へ。念のために精密検査をして、今日、この千歳に帰ってくるという。

 きゃしゃなのにネコって凄い....。と感心しつつ、フライト画面を見ると備考欄に「KOTAROU FLT」の文字。コタロウの便の到着を担当した人いわく、「涙の御対面」だったそうだ。

 私はどんなネコだったのかをきいた。
「それがね、どんな猫だったと思う?」
「和製ネコで黒と白の模様だったんでしょ?」
と聞くと、
「それはその通りなんだけれどね.....すごいおでぶなネコだったのよ!」

 彼女いわく、「あれだけの厳しい条件の中、貨物室に溜まった水だけで生きられたのはあの皮下脂肪があったからこそではないか」、というのである。私の想像していた、きゃしゃな和製ネコのイメージはみごとに崩されたのであった。

 それにしても巷にいる野良猫ちゃん達がおでぶなのが目立つのも、ひょっとしたら単に栄養が行き届いているだけでなく、「いざ」というときのこともあってなのかもしれない。

 

 

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