◆ 人に見られる職業ゆえの 〜 化粧

デパートの化粧品売り場でやっている「メイク・アップ」のサービス。
興味があるものの、試したことがない。やはりお化粧する様子を人に見られるのは、着替えている姿を見られているようで抵抗がある。また、試した以上は購入しなければと思うのが人情なので、なおさら足が遠のく。

それでもやはり女性誌などを見ていると、「これでもか!」というくらいの化粧品の広告や特集。
「本当にそんな効果があるのかしら??」
と思いつつ、値段に目がいくのだから、自分でもいやになってしまう。

といっても、私のお化粧に対する姿勢は、その気持とは裏腹に淡泊なもの。
例えば、ファンデーション。
母親が使っているのを、
「とりあえず、これ使ってみたら?」
といわれて使っている程度。ましてや、
「こうすれば目元がぱっちり!」
などといった技術すら持ちあわせていない。
単に、「身だしなみとしてお化粧をする」程度のこと。

だから入社後の合宿でお風呂に入った前後、
「あら?」
と思うくらい顔の感じが変わっている人を見たときには、驚きとともに感心したものだった。
(つまり、もともとまだ幼い顔なのに、お化粧することで大人っぽく見せているということ)

確かに訓練でもお化粧の仕方を指導してもらえる時間はあったけれど、所詮、
「会社の制服を着ている人のために」
という話の進め方なので、
「その人に似合ったアイ・シャドウの色は・・・」
などは全くない。つまり、「仕事用の顔」を作るための授業。先ほどの「デパートの化粧品売り場でやっている『メイク・アップ』のサービス」の主旨とは全く異なる。とにかく個性よりも協調性を求められている気がした。
(またこの授業のことはいずれご紹介することになると思う)
そのようなわけで私のお化粧の仕方は、その指導の後も磨きがかかったというわけではない。

でも、中にはこんな私とは全く正反対の人もいる。

入社して間もないある夏の日、強い日差しの中で同期の一人と歩きながら話をしていたことがあった。内容は忘れてしまったけれど、何か面白い話だったので、二人で大笑いをした。すると彼女が、はたと真顔になり、
「顔に日差しを浴びながら笑うと、その時にできた顔の筋が『しわ』になるんですって。大変!」
持っていたバックからコンパクトをとりだして、自分の顔をチェックし、化粧直しを始めた。
一方の私は、急にそんなことを言われあっけにとられた後、
「何をおばさんみたいなことを言っているの?」
と心の中で呟いたのだった(ちなみにこのとき私たちは二十代前半)。
そんなことを気にして、自然に笑うこともできないなんてなんだか悲しい。
半ば呆れつつも、自分にはできないことなので、ある意味彼女に感心したものだったけれど。

ちなみに私の化粧時間は三十分とかからない。一方の彼女は、きちんとベース作りから始めるようで、その時間は私の二倍以上らしい(ということが、ずいぶん時間が経ってから判明した)。
確かに彼女は美人だけれど、私の中には「?」が残る。恐らく、ある程度年を重ねてから「肌年齢チェック」などをすれば、実年齢よりも若く保っていられるのかもしれない。でも、私はそんなことをしてまで「しわ」を気にしたくはない。
(勿論、紫外線を防ぐ程度の肌をいたわるケアはしているけれど、私個人の感覚として、自然にこぼれる笑顔ほど素敵な表情はないと考えている。)

ただし職場では雑誌に紹介されるような、「化粧の達人」は確かに存在する。
(少なくとも先ほどの彼女はそんな中の一人と言ってもいいかもしれない)
それに、クルーの話題の中の一つには、やはり化粧の話題は欠かせない。
「その口紅の色、どこのですか?」
「なにかいい化粧品ないでしょうか?」
こんな質問から始まる話のやりとりを聞いていると、その質問に答える人が化粧に熱心な人かどうかがわかる。

例えばそれらの答えに、懇切丁寧に教えてくれる人。
「○○社から出ているのよ。番号はね・・・」
から始まって、本当に自分の気に入っているものならば、その商品がいかにいいかまで、まるで店員のように語ってくれる。
「何だかよさそうですね、買ってみよう。」
だいたいこの言葉でこの会話は終わる。実際に買うかどうかは別として。

それに対して正反対のパターン。こんな答え方をする人もかなりのお化粧へのこだわりがあると思う。これは大先輩に限るのだけれど。
「どの(化粧品会社)ファンデーション使っていらっしゃるんですか?」
これくらいの質問なら軽くかわされてしまう。それでもしつこく聞こうものなら、
「あなた達とはかけているお金が違うのよ!」
という答えが返ってきたりするので、驚いてしまうことも。
(ただし、その口調はさほど厳しくなく、ユーモアたっぷり)
きっと化粧品云々ではなく、エステサロンに通ったり、秘密の何かがあるのかもしれない。
「失礼いたしました;;」
ひとまずそう言いつつ、その一方で、年齢に関係なく一定のコンディションを保っていらっしゃるのには敬服するばかり。

ご存知の通り、私たちの職場である機内は常に乾燥しているし、国際線では時差がある。それに、どう考えても美容に不可欠と言われている「睡眠」「栄養バランス」が満足にとれているとは思えない。そして「ストレス」も沢山ある。そんな中で自分を美しく保つ。正に努力の賜物というべきだろう。

お化粧は確かに、社会で活動する大人の女性としてのマナーの一つだと思う。しかし、それに頼りすぎて、もっと大切な何かを忘れないようにしたい。
いくら美人な女優さんがいても、演技力がなければ「女優」の価値が半減してしまうのと同じ。少し厳しい見方なのかもしれないけれど。

立ち居、振るまい、ちょっとした言葉遣いなど、およそ上辺だけ飾っただけでは隠せない事柄の方が、人が無意識のうちに「美しい」と感じる時に優先されていたりするから不思議だ。ただし、それは化粧のような即効性は望めない。普段からの積み重ねで自然と身につけていくしかない。

機内での彼女達が美しく見えるとしたら、それは制服や化粧だけの力ではなく、実は地道な積み重ねによるところが大きいのではないだろうか。

 

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