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◆ 結婚願望 ミールサービスが終わると、ギャレーにもようやくホッと一息つける時間がやって来る。それまでの戦争のような慌ただしさが嘘のようにキャビンも落ち着きを取り戻している。 「では順番にお食事をいただきましょうか」 グループフライトを離れてしまうと、一つのフライトを編成している顔ぶれが全く同じということは皆無といえる。つまり、初対面の人と食事を取らなければならない場面が多くなる。以前寄せ集めのフライトで仕事をしたことがある人ならば、何となく様子がわかっているので話題にも困ることはない。けれども、全くの初対面で、しかも相手が先輩となると話は別である。だんまりを決め込んで食事をするわけにもいかないので、あれやこれやと当たり障りのない話をし始める。仕事の話、到着地の話、芸能ネタ・・・、とにかくお互いのプライベートな部分には直接触れないようにするのが一つのエチケットともいえる。(クルーが芸能ネタに強い理由の一つとしてこういった場面で情報交換をしていることもあげられるのかもしれない) あるとき、お客様が少ないこともあって食事を三人でとることになった。ベテランのアシスタントパーサー(数年のうちにはパーサーに昇格してもおかしくないような乗務経験あり)と私(当時アシスタントパーサー2年目くらい)、それからスチュワーデス(乗務歴は2年くらい)で横並びに座ってクルーミールを食べ始めた。 最初はお約束通り当たり障りのない話題をしていたのだけれど、何かの拍子で恋愛の話になった。 未婚の先輩の反応がみんなこのようなわけではないし、むしろこの例は極端な部類に入る。しかし、この状態が表わすとうり、相手が既婚者であるかどうかということは会話を進めていく上で結構デリケートなことなのだ。 欧米などでは、相手の女性が何歳か、結婚をしているのか、子どもはいるのか、と言ったプライベ−トな事を面と向かって聞く事はタブーである。しかし、日本ではそれが当たり前のように(場合によってはそれらを聞かなければ話が進まない)初対面の人でも聞いてくる場面が多い。例えば目上の方とお話すると、歳を聞かないまでも、 普段からそういった風潮のなかで生活している仕事を持った女性は、知らず知らずのうちに、 つまり、先ほどの先輩が後輩に対して急に態度が冷ややかになったのも、恐らくこのような状態ではなかったかと予想できる。親には、結婚はまだかと言われ、第三者からは好奇の目で見られ、揚げ句の果てに既婚の後輩に先を越されたような錯覚に陥る。そして身近にはいい意味でも悪い意味でも結婚することなく定年を迎えつつある女性の先輩の姿を目の当たりにしているのだから、ますます「結婚願望」がつのってもおかしくない。冷静に考えれば「世間体に対する焦り」でしかないのだけれど。 しかしその一方で、ようやくその願望をかなえた人達がいつの間にか旧姓に戻っていることも少なくない事実もある。そしてそういう経験をした人は、以前のような既婚者に対しての冷たい態度は決してとらない。うまく表現できないけれど、ある種の自信がみなぎっていることが多く、物事に対しても浮かれた感じがない。彼女達の一人はいう。 昔の日本だったら想像もできないような事・・・女性が自分で人生を切り開いていくこと、がごく当たり前のように口にできるようになった。果たしてこのことを「頼もしさ」と見るか「愚かさ」と見るか。それを考えるとき、「女性である以前に人間である」という最も根本的なことにようやく気づくきっかけになるのかもしれない。
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