◆ 機内での出会いについて

「クルーをしているのなら、『機内での出会い』があるでしょう?芸能人とか青年実業家とか・・・」

確かに、芸能人、野球選手を始めとした著名人のお嫁さんがクルーだったりすることは多いような印象を受ける。それは恐らく、
「結婚相手はスチュワーデス・・・」
というふうにマスコミが派手に騒ぎ立てるせいもあると思う。

果たしてどれくらいのクルーが、「有名人の奥さん」になっているのか私にはわからない。でも、その中には、お相手が幼なじみだったり、元クラスメイトだったりすることもあるし、他にも人からの紹介で結婚に至るケースがあることからもわかるように、かえって、
「出会いの場が機内である」
というのは稀な事のように思う。
「機内で見初める」
なんて、何処かの小説に出てきそうな場面ではあるけれど。
実際問題、お客様が必ずしも見初めなくてもよいわけで、その逆の状態だってあるわけだし。

お客様の側からどのようにクルーを見ているのかは人それぞれなように、クルー側もお客様に接するときには様々な思いがある。当然、
「あわよくば結婚相手に出会えるかも・・・」
と思いつつ仕事をしている人がいることも否定できない。
また、そう言う具体的な目標(?)があって仕事をしているクルーの方が、
場合によっては仕事ができたりするので、何だかな、と思うこともあった。
とはいうものの実際のケースとして、
「念じれば通じる」
を絵に書いたようなゴールインだってあるので、世の中捨てたものではないのかな、とも思う。勿論、一緒になるのはお互い好意があってのことなので、結果オーライ。目標達成、お幸せに、である。
(まあ、私には縁のないお話であった事はここで認めておかなければならないけれど)
とはいうものの、そんなことはごくごく稀である、ということは改めて記しておきたい。

ここで、ある後輩クルーのことを思い出した。
彼女とはグループが違ったので、あとにも先にも仕事を一緒にしたのはその時だけ。そんな彼女が何故印象に残っているのか、といえば、ステイ先で食事をしていた時の一言があまりにも強烈だったからだ。

あれは確か、みんなで結婚云々の話をしていたときのこと。
「私、○○選手と結婚するんです!」(ちなみに野球選手)
と声高らかに宣言したのだった。
「え?そうなの?」
その場にいたチーフを始めとした私たちは驚いて、口を揃えて言った。私たちは多国籍料理のお店で食事をしていたのだけれど、さすがにその時の何とも言えないどよめきは、店内の統一感のない空間をますます怪しいものにしていた。
当時、ある女優さんとその選手が交際していると週刊誌で報じられた直後だったので、まさかそんな発言を身近に聞くなんて思いもよらなかった、ということもある。

「いえ、まだ紹介してもらっていないんですけれど、私、絶対します!」
普通なら、
「なーんだ、びっくりさせないでよ。そういうことはちゃんとそうなってから言うものよ」
くらいのことは言えるはずなのだけれど、「付合いたい、結婚したい」のレベルではなく、「結婚する」という彼女の気迫のようなものに押されて、そんなことを言えるような雰囲気では無くなっていた。
それに、彼女の中では、その選手との結婚に至るまでのプロセスがしっかりとシュミレーションされている。
「紹介してもらう人とはコンタクトがとれているので、あとはシーズンオフに会う機会を作ってもらうだけなんです」
と言う。

多少お酒が入っていたものの、彼女の話す内容があまりにも現実味がありすぎて、その時の男性チーフを始め、聞いている私たちも、
「もしかして、本当に結構するのではなかろうか?」
と思ってしまうほどだった。
(勿論、結婚後のお金のことなども考えていたし、彼の健康管理に至るまで、それは見事だった)

その後、何度か会社で彼女を見かけることがあり、
「その後、どう?」
と声をかけると、
「なかなかお互いのスケジュールがあわなくてまだ会ってないんです・・・」
とのこと。でも、彼女の表情からは「希望」が消えた様子は全くなかった。
さらに、その選手と噂になった女優さんも、その後他の人との熱愛が発覚した。そしてついに、後輩の話から一年も経たないうちに、その選手の婚約記者会見が行われることになった。

「これはもしかして、もしかするかも?」
と思い、会見の様子をテレビでチェック。しかし、彼の隣に座っていたのは後輩ではなく、スポーツコーナーを担当していたアナウンサーだった。ありがちといえばありがちなパターンであった。

その後、後輩はどうしているのかは定かではないけれど、きっとまた新たな人生設計を彼女なりにたてて頑張っていると思う。
(ちょっとやそっとでめげるような感じのする子ではなかったし。)

そう言えば、知合いのクルーでも、
「今度お相撲さんとお見合いをする」
という、かなり正式な筋から来たという話を聞いたことがあった。

でもどういうわけかその話の半月後に、そのお相撲さんは婚約記者会見を行った。勿論、お相手は彼女とは別人である。なにがどうなっているのか、いまだに私にはそのへんのカラクリが全く理解できない。彼女自身、期待しているところがあったようなので、本当に気の毒だったのを覚えている。
(ちなみに、彼女は風の噂で相撲界とは無縁の男性と結婚したそうである。)


かと思えば、それこそ機内で「偶然」な出来事から出会いに結びついたケースもある。

あるクルーがキャビンを歩いている際に、突然タービュランスが発生し、自分の身を守るため、彼女は空席に座わらざるをえなくなった。そのときにたまたま座ったのが、ある有名人の隣。それがきっかけで二人の交際は始まり、めでたくゴールインしたという。

ただ、これは極めて珍しい事なのはおわかりいただけると思う。
もし、タービュランスが起きなかったら(通常そう言うところは避けて飛行しているし)、満席だったら、席があったとしても彼の隣が空いていなかったら・・・。これらの「もし」が一つでもあったら、二人の出会う条件は満たされないのだから。

それでも、機内での出会いは多いと思っていらっしゃる方。
それでは、確率から考えてみましょう。

まず、有名人が数人乗っている、とする。その有名人と接客できるのは、ごく限られた人数であることはわかっていただけると思う。つまり、少なくともその有名人が座っているクラスに自分がアサインされなければ、お互いの存在を知る事すら難しい。その人がファーストクラスに座っていても自分がエコノミークラスのサービスの担当だったら、と想像すると分かりやすいかもしれない。

次に運良くサービスの担当をしたとする。でも、その人が仕事に疲れてほとんど眠っていたら?起きていたとしても、運悪くこちらのサービスのし方が気に入られなかったら?

それらの「もし」を考えるとますます「出会い」に繋げるのは難しいと私は思うのだけれど。

つまり、人との出会いはまさにいろいろな偶然が重なって起こる、いわば「奇蹟」としか言いようがない。いいかえれば、これが「ご縁」というものなのかもしれない。

いずれにしても、肩書きが「クルー」だからといって、「ご縁」の前ではなんらその効力を発揮することはない、ということになるだろう。だから、夢の無いお話のようで恐縮ではあるのだけれど、
「機内での出会い」
などという話は、単に絵空事に近いものと思ったほうがいいかもしれない。

 

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