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◆アナウンスのお話 〜 その1
普段の生活の中で「アナウンス」が耳に入ってくる場所は限られている。
駅やデパートなどがその主なところであろうか。
私の職場であった空港や飛行機の中は、その「アナウンス」が特に多いところだった。
しかも「聞く」だけでなく、自分でマイクを持つこともある職場である。
飛行機の中だけに関して言えば、ある一定のスキルがなければアナウンスすることは出来ない。つまり、テストを受けてある一定の基準をクリアしてからでないと機内でマイクを持つことができない、ということになっている。確かに「アナウンス」イコール「その会社の代表」ということにもなるので、ある程度の基準を求められるのは当然ではある。
ちなみに、私たちは機内アナウンスのことを「P.A.」と呼んでいる。
間違えられやすいがこれは、
「public announce」
ではなく、
「public address」
の略である。
蛇足になるが、英語で機内アナウンスするときの始めの呼びかけ文句は、
「Attention please・・・」
ではなく、
「Ladies and Gentlemen・・・」
である。
これはどうも昔のスチュワーデスのドラマ「アテンション・プリーズ」の名残でそう思っている方がいらっしゃるようだ。
では、その「P.A.」はどれくらいの方が聞いてくださっているのだろうか。
成田からホノルルへ行く最終便を乗務したときのことである。
エコノミークラスのギャレーにアサインされた私は、到着前にサービスする朝食の準備をしていた。後10分ほどでそのサービスを始めようか、というときにチーフが緊張した面持ちでギャレーに入ってきた。
「さっきキャプテンから連絡があって、GO-AROUNDするということなので気持ちの準備をしておくように」
『GO-AROUND』、それは着陸すべく滑走路に進入する途中で着陸をせず、上昇に移ることをいう。
「何かあったんですか?」
「それが・・・」
チーフの話によると、私たちの飛行機を含む何機かの飛行機が飛び立った後、成田の滑走路に落とし物(車輪部分の部品と思われるもの)があったので、念のためにGO-AROUNDをすることで、現地の整備さんが目視でランディング・ギアがちゃんとでているかどうか確認することになった、ということだった。
「では、必ずしもその落ちていた部品がこの飛行機のもの、とは限らないわけですよね?」
その場にいたひとり先輩が言った。
「でも、確率はあるわけだから、準備はしておいて。お客様へのアナウンスはサービスが終わってからします。そのタイミングもオールコール(インターフォンですべての部所に知らせること)しますから」
ギャレーの中にいたみんなは顔を見合わせた。おそらくその脳裏をよぎったのは
「その部品がこの飛行機のものだったら・・・」
ということから想像できる、正に『最悪の事態』に違いなかった。
「時間だからサービスを始めましょう。」
エコノミークラスの指揮をとっていたパーサーが言った。そしてそれを合図にギャレーのカーテンを開き、サービスが始まった。
とにかく「乗客を不安にさせないこと」、これが第一。そして、普段の通りに振る舞うことが取りあえず私たちに出来ることだった。
乗務し始めてからたかだか3年足らずの私には、『GO-AROUND』といわれてたところで、機内がどうなってしまうのかを簡単に想像できるものでもなかった。滑走路に進入する時は通常通りの機体の傾き方だろう。しかし、そこから急上昇する時に、この大きなジャンボジェット機の機首がどれくらいの角度で上に向けられるのかは全く検討もつかなかった。アクロバットをする飛行機なら、限りなく垂直に近い角度で急上昇することも可能であろう。しかし、このジャンボ機はほぼ満席のお客様を乗せており、もともとの機体の重量だってかなりあるのだ。ということは、私の想像するところの「急上昇」は不可能ではないかという結論に達した。
サービスがひと段落付いた。
着陸前の間に私たちは手の空いた人から順番に軽い食事をとる。
同じ時間に食事を一緒にしていた先輩と先ほどの『GO-AROUND』の話になった。
「どんな感じなんでしょうか、私には想像がつきません」
当然その先輩も私と同じような気持ちでいるだろうと思って話しかけた。
すると、
「身体で感じる角度っていうのはね・・・」
と話し始めた。なんとこの先輩は『GO-AROUND』を経験していたのだ。
「そうね、わかりやすく言えば離陸するときの角度よりもかなりきつくなることは間違いないわね」
その先輩いわく、キャプテンの上手下手もあるということだったが、何しろ私たちはお客様と向かい合って座っているため、かなり角度の体感のしかたが違うらしい。機首方向に座っている場合は座席の背に圧力がかかる。しかし、私たちはシートベルトにその圧力がかかるのでいつも以上にきちんとベルトを締めておかないと放りだされてしまう、という。それから、収納されている荷物が飛び出してこないようにハットラック(上の棚)のストッパーも確認すること。(これは万が一そこから荷物が飛びだすと危険だからである。)
「着陸前にしていることをいつも通りにきちんとチェックしておけば大丈夫。」
そういって先輩はキャビン(客室)に出ていった。
「とにかくいつもの通りしていることを確実にすればいいんだ・・・」
私は不安を紛らわせるように自分に言い聞かせた。
後はキャビンに出てもその不安な気持ちを顔に出さないこと。
「皆さまにご案内申し上げます・・・」
いよいよチーフのアナウンスが始まった。
その2に続く・・・
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