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◆アナウンスのお話 〜 その2
「皆さまにご案内申し上げます・・・」
いよいよチーフのアナウンスが始まった。
しかし、その声色はいつものそれよりも心なしか緊張しているような気がした。
「機長からの連絡によりますとこの飛行機は順調に飛行をしておりまして、予定通りにホノルルへ到着する予定でございますが・・・」
私は食事の片付けをして身だしなみを整えてキャビンにでた。少しでもお客様の不安材料を取り除くため、質問などがでた場合すぐに答えられるようにするためだった。
「このチーフのP.A.が終わるか終わらないうちにお客様から質問攻めにあう」
と言う状況が私の頭の中では出来上がっていた。一人がパニックを起こすとそれが全体に及んで収拾がつかなくなる事態も十分考えられたし、またそれが一番怖いことだった。
とにかく「確認のための『GO-AROUND』」であることを強調しなければならない。余計な不安を抱かせてはならなかった。
チーフのP.A.が終わった。
私はエコノミークラスの客室をゆっくりと歩いた。お客様の顔色を見ながら。
「スチュワーデスさん、あのお・・・」
ついにきた。落着いて答えなければ。
「これ、下げてください」
サービスしたコーヒーカップだった。
気を張っていただけにずっこけそうになった。
ギャレーに戻ると、他の先輩達も集まっていた。
「どうだった?何か聞かれた?」
パーサーがキャビンでの様子を聞いている。
「いいえ、何も聞かれませんでした。チーフのP.A.聞こえていましたよね?」
このエコノミーの客室では『GO-AROUND』に関する質問は全く出なかったようだ。
「とにかく、着陸時の最終チェックは確実にしてください。それから自分たちも安全姿勢をしっかり取るように。」
「この飛行機は、最終の着陸態勢にはいりました・・・」
通常のP.A.が流れ出すと、私たちは「最終チェック」にあたった。
つまり、乗客がきちんとシートベルトを締めているか、棚やそのほか物が収納されているところのストッパーがきちんとかかっているかどうか、など着陸の際にするチェックをするのである。
そのチェックをお互いに確認しあった後、自分の座るべき席(「ジャンプシート」と呼んでいる)についた。先ほどパーサーから言われた「安全姿勢(注1)」を取る。
窓の外を見ると、だんだん高度が下がってきているのがわかった。
まだ経験したことのない状況が来るかもしれない不安。
そんな私の気持ちとは裏腹に、客室のほうは目的地が「ホノルル」のせいか和やかな雰囲気である。
通常、「普通とは違うと思われること」、つまり航行中の大きな揺れや音などがあった場合は、
「大丈夫なんでしょうね??」
と言う視線を一身に受けるものなのだが、そんな様子も全くない。
必要以上に緊張されても困るのだが、こちらとしては拍子抜けである。
そして、「GO-AROUND」。
予想よりもスムーズな上昇。
エンジン音が少し大きく聞こえるような気がしたものの、とりあえず客室内に変化はなかった。
しばらくしてからオールコール(注2)が来た。チーフからだった。
「キャプテンからの連絡で例の『落とし物』はこの飛行機ではなかったようです。ですから通常通りの着陸にこれから入ります。」
これで一安心。チーフからも改めてその旨のP.A.が客室に入る。
飛行機は定刻より少し遅れて到着したものの、お客様からの質問などは結局受けることはなかった。
「何事もなくてよかったですね」
私たちは飛行機から降りると口々に言った。
そして、みんな改めてキャプテンの「腕前」に感謝した。
さて、「P.A.」の話に戻ろう。
マイクを通して情報を伝えれば、半ば強制的に人の耳に訴えることができると誰もが思っている。この『GO-AROUND』に関する「P.A.」も、
「これから起こることに対して気構えをしておいてください」
と言うことを乗客に伝えたかった。しかし、残念ながら私たちの予想を裏切って、ほとんどの方は聞いていらっしゃらないようだった。と言うよりも、
「聞こえてはいたけれどその内容を聞き取ろうとしなかった」
のかもしれない。その証拠に、私のサービスしたエコノミークラスの乗客からは何の質問も出ないばかりか、客室の雰囲気すら変わるわけではなかったのだから。
(そのほかのファーストクラス、エクゼクティブクラスなどはちらほらと質問は出たようだったが。)
そうなるとやはり、
「アテンション・プリーズ・・・」
は有効である様な気もしてくる。
しかし、私が実際の現場で教わった「P.A.」の役割は、「ただ情報を伝えればいい」というわけではなかった。そこにはマニュアルで定められた文句を、「いかに業務的ではなく伝えられるか」という課題が課せられる。単に伝えるだけだったら、電車のホームで自動に流れるアナウンスの様なものを客室に流せばいいのである。でも、そうしないのはおそらくそれも私たち客室乗務員の管轄であるサービスの枠に入るからであろう。
飛行機に乗ると様々なサービスがあるが、今度はぜひ「P.A.」も注意して聞いていただきたい。もしかするとそれにはいつもとは違った、何か重要な情報が含まれているかもしれないのだから。
(注1)安全姿勢・・・いわゆる「衝撃防止姿勢」と言われるのと同じ。シートベルトはきちんと腰骨の位置に締め、足を肩幅に開いて自分の座席が動かないように手で押さえて、背中を背もたれに押し付け、あごを引く。私たちは機首方向に背を向けて着席している分、こうしないと万が一の衝撃の際には耐えられない、とされている。
(注2)オールコール・・・一箇所から・客室内にあるハンドセット(電話の受話器のような形状をしたもの)すべてを呼び出すこと。ボーイング社の飛行機の場合、呼び出し音で通常のコールかどうか判断がつく。
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