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◆ 再会
国内線を乗務して一年を過ぎると、さすがに後輩の数は増え、いつの間にか「指導される側」から「する側」へと私の立場は変わっていった。
「習うより慣れよ」の言葉通り、仕事ぶりもチェック・アウト(*1)当時が嘘のよう。長女気質の上に見栄っ張りな性格も手伝って、後輩ができ始めると私はますます張り切って仕事をするようになった。
実際、接客の楽しさがわかってきたのもこの時期。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」がようやく自分の言葉として自然に口から出るようになったのもこの頃かもしれない。
仕事の充実感とは別に変わらないことがあった。
それは千歳ステイの時、必ず地上研修中お世話になった同年代の先輩に連絡をしていたこと。私にとって千歳は第二の故郷になっていたし、そこで同じ時期に勤務をしていた人達は短い間だったとはいえ、大切な人達になっていた。
そんな千歳ステイのあるとき、ご飯を食べながら新しく赴任してきたS訓(*2)の話を聞かされた。
「今度は三人はいってきたよ。みんな関西出身で・・・」
彼女達の仕事ぶりなどを聞きながら、私はある人物を思い浮べていた。
「そのS訓の一人ってAさんっていう名前じゃあ・・・」
「そうそう。知合いなの?」
やはりそうだった。彼女は小学校のクラスメイトで中学も同じ学校だったけれど、クラスは違っていた上に、二年生になる頃には関西方面へ転校してしまっていた。ただ、最近になって彼女がスチュワーデスの試験に合格したと風の噂で聞いていたので、もしや、と思ったのだった。
彼女のことといえば、特に印象に残っているのが小学校卒業文集に書いた「将来の夢」。クラスで、
「獣医さんになりたい」「保母さんになりたい」
などと書いている中で彼女は、
「スチュワーデスになりたい」
と自分の制服を着たイラストも書いていた。子供ながらに、
「ああ、そうなんだ」
と、何の抵抗もなくその夢の話を当時受け入れられたのは、今思えば不思議なことといえる。何故なら、もし彼女の容貌が子供たちの想像するスチュワーデス像と懸け離れていたら、
「あんなこといっちゃって・・・」
とクラスでも多少からかわれたはず。でも、そんなことは決してなかった。
小学六年生にして当時160cm近くあった彼女は、同級生の私たちにはそれだけでも大人びて見えた。いくら同い年といっても、それだけでクラスの男子にはある程度の威圧感を与えていたようだった。実際彼女は目立っていたし、健康優良児の代表として選ばれたりもしていた。しかし、彼女の性格は至って穏やかで、可愛らしかった。当時彼女にちょっかいを出していた男子は、おそらくそうしたギャップが魅力だったのかもしれない。ただそれをそうだと素直に受け入れられないのが複雑な子供心といえるのだろうけれど。
私がその同級生の話をすると、
「もしそうだとすれば奇遇だね。今度時間のあるときに会えばいいのに」
と言われた。
近々自分の仕事で、GRAND STAY
TIMEが長いパターンがあるのを思い出し、彼女の勤務パターンを聞いた。
「ああ、その日は業務の方にいるんじゃないかな。」
私は思いきってその日に会いに行くことにした。同姓同名の別人、という可能性はまだ残されていたけれど、もし彼女だったらこれはニュースだ。
ついに、その日はやって来た。飛行機が到着して折り返しの便が出るまで二時間近くある。オフィスへ行くことを上司に断わってSHIPを離れた。
「こんにちは・・・」
オフィスにはプロパーの女性しかいなかった。
「あ、久しぶり!元気?」
「ご無沙汰してます。あの・・・」
事情を説明すると、彼女はすぐに戻ってくるという。雑談しながら少し待たせてもらうことにした。
しばらくして、
「ただいま帰りました〜!」
と言う声とともに彼女がオフィスに入ってきた。やはりあの彼女だ。
「ひさしぶり!」
思わず声をかけると、
「あ〜〜!!」
すごい声を出して彼女は驚いていた。しかし、次の瞬間、
「大きくなったねえ〜!」
そこにいたプロパーは大笑いした。
「親子のご対面番組じゃないんだからさあ・・・」
さすがの私もまさか第一声でそんな言葉が出てくるとは思わなかったので、拍子抜けした。
でも、そういう彼女の気持はわからないわけではなかった。というのも、小学生当時の私は140cmそこそこ。160cmから見下ろしていた目線は、再会時は私と同じ、いや、多少私の方が目線を下に向けるような感じにすらなっていたのだから、親が久しぶりに子供に対面するようなものだったのかもしれない。こうしてみると、子供の成長ってすごいものだ。
私も仕事の時間があるので落着かない会話だったけれど、彼女の話によると、チェックアウトは国際線だそうだ。
「いいわね、私も早くその制服が着たいわ!」
彼女の瞳は夢見る少女そのままだった。
こうして小学生の頃の夢を彼女は実現しつつある。
「スチュワーデスになりたい!」
その思いでずっといたのかどうかは定かではないけれど、結果的に志を貫いた彼女はすごいと思った。
さて、小学生の卒業文集に書いた私の夢・・・。
「詩人になりたい」
全く違う方向にいる自分に思わず苦笑してしまう。当時は単に詩を書くのが好きで、それを多少評価してもらったのが嬉しかったのだと思う。
彼女とはまた千歳ステイのときに合う約束をした。
わずかながら先輩の私としては、彼女が特に厳しい国際線の訓練の前に、少しでも楽しく地上研修ができることを祈るばかりだった。
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*1 チェック・アウト(CHECK OUT
):運行(客室)乗務員の訓練生が訓練または教育を受け、所定の審査により業務に必要な技能および知識を有することが認められること。
*2 S訓:スチュワーデス訓練生
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