◆ サン・パウロにて 〜 その1

自分たちが乗務する飛行機が来るまでの一週間をどう過ごすか。
このサン・パウロの治安を考えると、みんな頭を痛めていた。

例えば、同じ期間、アメリカやヨーロッパなどにいられるのとは全く事情が違うという。初めての私の南米線乗務は、仕事の内容もさることながら、日本を二週間も離れると言う正に過去最長の仕事。

「とにかく、治安は悪いですよ。ほかの国でしているようなこと・・・、例えば一人でジョギングなんかしていて追いはぎにあった人もいますし、アクセサリーもとられますしね。ピアスの人、気をつけてくださいね、耳ごと持ってかれちゃうよ。」

空港からホテルへ向かうバスの中で(一時間近くかかる)キャプテンが土地の様子を説明してくれる。コックピットの人達はある程度固定してこの南米線を取っているらしく、その事情には詳しかった。それにしてもこのキャプテン、「お笑い系」の容貌で、話し方も冗談っぽい。

「それから、なるべくホテルから一人で出ないでくださいね。街のあちらこちらに緑の多い公園が、例えばほら、右側にあるのとかね、そういうところへは襲われたい人、行ってください。」
思わず私たちも顔を見合わせて苦笑い。
「いいですか、何度も言いますけど、くれぐれも気をつけてくださいよ。空港支店の方からも注意事項についてのプリントを渡されたと思いますけど・・・では、私の話はこれで。」

たしかにサン・パウロの到着ロビーから出るなり、「滞在中の注意事項」が書かれた紙を渡されていたし、日本を出る前にもまさに耳にタコができるくらいに念を押されていた。あまりにも「気をつけて」を連発されるので異様に感じてはいた。

12時間(冬場は11時間)の時差はさすがに私たちの感覚をおかしくした。途中のロサンゼルスで二泊滞在はしているけれど、それはそれ、これはこれ。とにかく体調を崩さないように過ごすことが大切であり、大変なことはよくわかった。

到着した翌日、外出組は二通りあった。ゴルフ組と支店長宅訪問組である。私はゴルフをしないので、必然的に後者に加わることになった。

8人くらいだっただろうか、市内から少し離れた、いわゆる「高級住宅街」を訪ねた。小高い所にあるその住宅街は、個人が所有している土地が広いせいか、家が密集している様子がない。例えば、お邪魔した支店長のお宅もプールは勿論のこと、庭にテニスコートもある。しかも、アメリカなどに見られるようにそれらが隣接しているというよりは、点在している様な印象を受けた。

こんなふうに書くと、
「どうしてそんな豪邸に住まなければならないのか?単に贅沢ではないのか?」
と言う疑問を持つかもしれない。しかし、それは「治安上の理由」に尽きる。支店長というのはいわば現地では会社の顔、日本の顔である。そうした人に万が一のことがあれば、会社だけではなく国としても大変なことになりかねない。とにかく、一つでも不安な要因は取り除くために、そういった環境で生活するように配慮されている。

まずそのコートをお借りしてテニスをし、そのあとにお昼をいただいた。そこには私たちのほかに、ご近所づきあいのある人達もきていた。

私達と同じような年ごろの女の子達とそこで友だちになることができた。一人は日系ブラジル人。日本語が少し話せる。後の2人は姉妹で、台湾系のブラジル人。日本語は話せないけれど、英語は話せる。「ミス・なんとか」に選ばれたこともある美人姉妹である。

「今度うちにいらっしゃいよ?」
後日、その姉妹のお家に招かれることになった。

このお家がまたすごい。支店長のお宅どころではないのである。母屋のほかにゲスト用の家が一軒(ゲストルームでないところがすごい)、ビリヤードなどのゲームなどを楽しむための家が一軒。そのほかにプールがある。お家を見せていただくにもちょっとした「ツアー」だった。

「でも、うちにはテニスコートがないの。だからたまに(支店長のコートを)貸していただくの」
私たちはただ、ため息ばかり。揚げ句の果てに、
「ねえ、よかったら泳がない?水着ならあるわよ?」
後輩の一人が泳ぐことになった。美人姉妹の妹さんもそれにつきあう。

「かっこいい〜!」
ハイレグのワンピースの水着で登場したその姿にはさすがに見とれてしまった。何しろその水着には胸のパットが入っているわけでもなく、身体の線がばっちり出てしまう。同様の水着を着た後輩も、それなりにスタイルは良いほうだったけれど、断然負けていた。とはいうものの、そのパットなしの水着を着た後輩も大したものである。私だったらその手の水着は絶対に着られない。まさに「敢闘賞」をあげたいくらいである。

「どうしてこう、ちがうのかな〜;;」
思わず後輩の漏らしたその言葉に、
「仕方がないわよ、骨格よ、骨格!」
と、みんなでフォローにならないフォローをするしかなかった。

「市内は治安が悪いって聞いたけれど、本当なの?」
彼女達の生活ぶりを見て、思わず聞いた。
「そうね。気をつけたほうがいいわ。もし、行きたいところがあったら連れていってあげる」
彼女達は大学生。曜日によっては授業がないのでつきあってくれるという。

しかし、そんな話とは別に個人的に美人姉妹のお姉さんの方と話をしていたら、
「今度一緒に飲みに行きましょうよ!」
ということになった。彼女の彼を紹介してくれるという。
お酒は飲めない私だったが、飲める後輩を伴ってその誘いを受けることにした。

 

その2に続く。

 

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