|
◆ 新人は大変だ 〜 ギャレリーナの話(国際線編) 国際線に移行してしばらくの間、お風呂に入ったり、シャワーを浴びたりすると、お湯がしみることがあった。仕事をしている間は気づかないのだけれど、どうも機内であちこち切ったり擦りむいたりしてるらしい。 「身だしなみが大切」 マニキュアがはがれるのは、ギャレーでバタバタとカートを移動したり、「アントレ付け」などをするせいだろう。「これをしたから」という決定的な理由はないし、あったとしてもそれが気になる余裕などはない。ひどいときは爪の先の方が割れたり欠けたりするけれど、そんなことに気が付くのは仕事が終わってから。とにかく一端サービスが始まってしまうとギャレーは戦場と化し、新人ギャレリーナはひたすらそのサービスの流れをスムーズにするために、考えつくあらゆることを行動に反映させなければならない。 「短く爪を切ればよいのでは?」 このように爪のダメージがあるということは他にもどこかしら負傷(?)しているということになる。台所でするような傷がほとんどだけれど、案外知られていないのが「ドライアイス」による火傷ではないだろうか。 このドライアイス、食品の鮮度を保つため(保冷のため)に国際線には必ず搭載されている。最新の飛行機ではもしかしたらこのようなものが無くても冷蔵庫のようなカートが搭載されているかもしれない。でも、100%電気に頼るのは恐らく無理ではないだろうか。というわけで、まだこのドライアイスは健在だろうと私は思う。 「保冷用」として利用されるドライアイスは、一つがだいたい15×25×3cmくらい、もしくはその半分の大きさ(搭載される国などでその大きさはまちまち)。固体の状態だと重いくせに気化してしまう性質から、ギャレリーナ泣かせの代物だ。ギャレー担当者は食品の管理をする関係上、この入れ換えなどもしなければならない。 ドライアイスは、ギャレーから遠く離れた機体後方にあるカートに搭載されていることが多い。乗務している路線が長ければ長いほどその量は必要になる。それらを紙袋に詰めて、持って運ぶことになるのだけれど、何度も往復していてはお客様の迷惑にもなる(この作業はだいたい映画上映中など機内を暗くしている間であることが多い)。そこでなるべく一度に沢山の量を運ぼうとするのだけれど、どうしてもその袋の耐久性から両手で抱えることに。その結果、「ドライアイス」のあたっている腕の部分が低温火傷をしてしまうことがある。 火傷といえばもうひとつ。「アントレ付け」のときによるもの。 先ほどご紹介した「ドライアイス」がオーブンにもカートにも入っているので、まずそれを取り除いてまとめておく(勿論、これはジュースを冷やしたりするので捨てない)。もしギャレーの中から煙や焦げたにおいがしてきたら、おそらくそのドライアイスを取り忘れた確率が高い。つまり、ドライアイスは温められて気化し、それを包んでいた紙だけが残って焦げてしまっていることが考えられる。 とりあえず、調理できたアントレ。それを付けるときに気をつけなければならないのが金属でできたアントレの入ったドロアー(drawer:引きだし)。何しろそのドロアーごと400℃ほどに熱されたオーブンに入っていたわけだから、その熱さったら・・・。少し触れただけでも皮膚が赤くなり、ひりひりする。しかも江戸時代の罪人ではないけれど(腕の入れ墨)、ドロアーの縁に腕があたり、線のように火傷の痕が残ってしまう。その格好悪いこと。おそらく熱さを感じた時点で冷やすなどの処置をしておけばよいのだろうけれど、とにかく戦場ではそんなことはいっていられない。お客様のためにひたすらアントレ付けに徹するしかない。言い換えれば、そんなところに傷があるのはまだまだ新米の証拠。我慢、我慢、である。 でも、あるときからお風呂に入ったり、シャワー浴びたりしてもしみる傷をしなくなった。これはひとえに仕事の「慣れ」というべきか。といってもそんな状態になったのは国際線に移行して半年をとうに過ぎてからのこと。
|