◆ 新人類と宇宙人

私が国際線へ移行して数年たっていたある日のこと。たまたま国内線の仕事がアサインされ、羽田に戻ったのは夜の9時をまわっていた。

帰宅時にタクシーが使える乗務パターンだったこともあり、着替えもそこそこに、配車室で自分の乗るタクシーの順番を待っていた。
(家の方向が同じ人たちとタクシーを同乗する仕組みになっているので、必ずしも一人ずつ配車してもらえるわけではなかった。)

しばらくして名前を呼ばれ、荷物をもって立ち上がると、同乗する人はなんと、国内線の時に同じグループだった先輩。
「おお、元気だったか?」
その先輩の男っぽい相変わらずの口調に思わず笑ってしまった。

このS先輩は私が初めて国内線のグループに配属されたときにインストラクターをしてくれた人だった。
ハッキリ言って私にとっては「苦手」な先輩。その先輩と一緒に仕事をするとなると異常に緊張して何かミスをしてしまうほど。
(ステイ先でも緊張して、仕事は午後からだというのに、どうしていいかわからず、朝から制服を着て待機していたこともあった。)
おそらくその先輩が、私にとって出会ったことのない女性のタイプだった事が緊張する原因となっていたのだと思う。

先輩は美人だけれど「こわい」という印象で、声も低め。
(それもあまり表情が豊かでないような感じ)
しかも、後輩を、
「おい、○○!」
とうふうに呼んだりするので、小心者の私はかなりビビッていた。しかも、お客様に対しては「人が変わったように」接するので、そのギャップには理解しがたいものがあった。(確かにその口調でお客様と接客されたら、会社側としてもたまったものではないけれど。)
少なくとも私がかねてから思い描いていた、「スチュワーデス像」とは全く違ったキャラクターだった。

私のO.J.T. 期間中、グループフライトでインストラクターをしてくださったこのS先輩。ただでさえ、仕事はわからないだけでなく、緊張の連続で頭が真っ白になっているド新人の私に浴びせる厳しい口調はよけいに私をパニックに陥らせた事はいうまでもない。

セミ同期の何人かもインストラクターとして指導を受けたようだけれど、O.J.T. 期間中、彼女達からは、
「かわいそう、あんな人が同じグループで・・・」
と涙目で同情される始末。余りの厳しさに、彼女達はみんな泣いたそうである。

「かわいそう」
と言われたところで、グループが変わるわけでもないし、何しろ仕事ができないのだから、まずその問題を解決しなければならない。そして、ご機嫌を取ってその場をしのぐ、という器用なやり方は私にはできなかったので、とにかく相手に慣れるようにするしかなかった。幸い、S先輩は私のことを嫌っているわけではなかった。

仕事の時も、聞けることは今のうちに聞かなくてはと思い、あるとき、
「ベルトサインが付いていて、私たちも着席していたときにお客様が席を立ったら(そのお客様を座らせるために)どうすればいいんですか?」
と質問をするとあれこれ説明することは一切なく、
「先輩がどういうふうにするか見てなさい」
というだけだった。新人の私は、
「なんて不親切な!」
と思ったものである。

しかし、後輩が入ってきて自分が指導する立場になると、それが「不親切でない」ということがわかってきた。つまり、私たちの職場は「ケース・バイ・ケース」なのである。その時その時で対処の仕方が違うことから、下手に、
「そんな時はこうするように」
と決まり事のように新人に言ってしまうと、「いざ」というときに全く応用が利かなくなってしまう恐れがある。これは一つの方法(サービス)では、あらゆるお客様を満足させられないのと同じ事といえる。
「何事にも冷静に、状況を見計らって臨機応変に対応する。」
思えば、先輩から教わったのはこのことだった。

かなり後になってから、私のすぐ上の先輩から、私が配属された当初、S先輩が、
「ちょっと違った新人が入ってきた」
とみんなに言っていた事を聞かされた。いつも配属されてくる新人とは違って見込みのありそうな、という風に見てくれていた、という。
当時の私は単に、「怖い先輩」と思っていただけに、ある意味皮肉な話ではあるけれど、そのことを聞いて私はとても嬉しかったのを覚えている。

さて、数年ぶりに再会したS先輩とタクシーに乗り込む。
「ご無沙汰しています・・・」
「どお、国際線は?」
「少し慣れてきました」
というような社交辞令的なやり取りから、話しはいつの間にか「新人」の話になっていった。最近の新人の仕事ぶりなどを話した後で、
「あんた達が新人で来たときは『新人類』でよくわからない、と思ったけど、近ごろの子達はもっとすごいわ」
「どんな感じなんですか?」
「そうだなあ・・・。そう、あれはまさに『宇宙人』だね!なに考えているんだか全然わかんない!」
そう言って、
「まだあんた達の方がよかったわ」
とため息混じりに続けた。

それを聞いた私は思わず笑ってしまったけれど、その気持はわからないでもなかった。年齢からして、私とその新人たちはせいぜい離れていて3、4年。でも仕事を進めていく上で、「普通はこう考えるであろう」という自分なりの物差しが、新人の彼女達には当てはまらない場面を、私も何度か経験していた。おそらく、S先輩と新人達は10年くらいは年が離れていたはずなので、私が思ったよりももっと大きな世代のギャップを感じているに違いなかった。

そうこうしているうちに、タクシーは渋滞に巻き込まれることなく、私の家に到着してしまった。
「お疲れさん、頑張るんだぞ!」
そう言って最後に見せた先輩の笑顔からは、ようやく話のわかる人間と話ができた、と言う満足感を感じた。

先輩から見て、新人は「新人類」から「宇宙人」へと、表現のしかたが変わってきている。
「もしかして、その次は『人』の文字すらつけてもらえなくなるのかなあ」
などと考えつつ、もう一方では、
「その先輩の感覚って、数年先の自分じゃないだろうか・・・」
という自分もいて、これからのことを思うと、なんだか複雑な気持になりながら、私は家のドアを開けた。

 

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