◆ シングル・パターン(一人旅)〜 その1

国内線から国際線へ移行して初めての北廻りのヨーロッパ線(*1)。
それは、成田→アンカレッジ→アムステルダム→コペンハーゲン→アンカレッジ→成田というパターンだった。

ヨーロッパに降り立つこと、しかも三カ国(アメリカ、オランダ、デンマーク)にわたって仕事をするのは初めてのこと。新しい国に足を踏み入れるのはまだドキドキしていた。まだ自分が国際線の仕事に慣れていないことが原因の一つではあるのだろう。でも、辛うじて救われることは、それがグループフライトであること。わからないことがあれば直ぐに聞ける先輩もいる。それに、滞在先で違和感なく行動できる先輩達(一緒に行動することが苦痛でない)と一緒なので、これは精神的にもとても心強いことだった。

ただ、一つだけ気になることがあった。このパターンの内容は確認していたけれど、フライトのパターンナンバーについているアルファベットが私だけ違うこと。そして、その違いは先輩との会話で判明した。

「今度の北廻りはどんな服装をもっていけばいいですか?アムステルダムとコペンハーゲンへ行くの、私初めてなんです」
「え!?コペンハーゲン??」
「いきますよね、コペン・・・」
「ちょっと待って。それ、もしかしてシングル・パターンじゃないの?」
「!?」

何と、私以外のグループの人たちはコペンハーゲンへ行かないで、アムステルダムからアンカレッジへ引き返してくるパターンであることがわかった。つまり、コペンハーゲンまで行くのは私一人。いわゆる「シングル・パターン」をアサインされたことになる。

「ああ、これコペンからアムスは(*2)一人で移動して、他のグループとジョイントするんだわ。それで、またアンカレッジで合流するのね」
「ということは、『一人旅』っていうわけですか?」
「これはちょっと厳しいわね、私だってそんなパターンまだやったことないし」と乗務歴約十年の先輩。
「私もそういうのにアサインされたことないからよくわからないけど・・・」
同年入社で国際線チェックアウトの先輩もそう答えた。
「まあ、何事も経験だから、がんばってね」
「はい・・・」

国際線乗務がそんなに慣れてもいないのに、このようなスケジュールを割り当てられた私は、まるで海外へ里子へされるような心境。不安な気持は一気に顔に表れてしまったらしい。
「大丈夫よ。とりあえず、マネージャーに話を聞いてみたら?時間管理のこともあるし」

通常、チーフパーサー、もしくはパーサーなど、乗務経験を積んだ先輩達が時間管理をしてくださっている。そして、その時間などは決められた用紙に書き込まれて会社に提出され、それをもとに私たちのお給料が支払われる仕組みになっている。いわば、タイムカードに似たシステムといえばいいかもしれない。

そのようなわけで、シングル・パターンではないかぎり、実際の勤務時間の管理はいつも人任せにしていたことになるのだけれど、今度ばかりはそれはできない。

さて、マネージャーからは、その時間管理を自分ですること、アムステルダムからコペンハーゲンの移動は他社で移動。勿論、次の仕事が始まるまでにすべて一人でしなくてはならないことを聞く。

「またそのフライトでショウアップした時に渡すけれど、チケット(他社に乗るための)を渡すから声をかけてください」
いずれにしてもコペンハーゲン滞在のおよそ四日間は一人で過ごさなければならないことははっきりしているので、休みの間、少しでも不安材料をなくすために下調べをすることにした。

フライトにかかわる出入国の手続きの事や、サービスの内容の勉強はいつもの通りするにしても、今回の私の心配事は「迷わないこと」。それも、とくに「空港で」。

いらした方はご存知だとは思うけれど、なにしろアムステルダム、スキポール空港はとても広い。搭乗口の番号を間違えるととんでもないことになるし、間違えなくても急に何かの理由で搭乗口の変更がおこれば、それも同じ事態を招くことになりかねない。航空会社に勤めているのだから、そういった失態はないようにしたいものである。いや、してはならない。

そして、いよいよこのパターンの乗務が始まる。まず、アンカレッジで一泊。翌日アムステルダムまではグループの先輩達と一緒なので、仕事が終わってから先輩達に話を聞く。

ジョイントするグループのチーフパーサーとパーサーには、ホテルに着いたらそれぞれメールを入れること。空港の様子、滞在地の様子や治安など。できるかぎりの情報収集をする。

もしもこれが「観光」だったらどれだけ気持が楽か。
先輩達の話を聞くに連れ、何事もなく、体調を崩すこともなく次の仕事ができるコンディションを維持しておくことは、当たり前だけれど実はとても難しいことに思えてきた。万が一自分に何かあれば、飛行機を予定通り運行することができないわけだし。

そして、アムステルダムからコペンハーゲンへ経つ日。
ホテルをチェックアウトしようとロビーへ行くと、先輩数人が見送りに来てくれていた。
「心細いだろうけど、頑張ってね」
「アンカレッジで待ってるからね」
結局、空港へ向かうタクシーに私が乗り込むまであれやこれやと声をかけてくれた。

「いってきます!」
タクシーのドアを閉めて手をふる。タクシーが走りだすと、バックミラーに映った先輩達の姿が見る見る小さくなっていく。そして私もだんだん心細くなっていく。と同時に、自分が小さいころ、初めて一人でバスに乗ったときのことを思いだしていた。まさか二十歳を過ぎてからもこのような思いをすることになろうとは。

こうして、私の一人旅は始まったのだった。

 

その2に続く

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*1 アンカレッジ経由でヨーロッパに入る便。現在、私の所属していた会社ではこの路線はなくなり、ヨーロッパ線は直行便が主流になっている。

*2 コペン、アムスとは正式名称ではもちろんない。それぞれの空港コードはCPH、AMSなので、つい私たちはそういう呼び方になってしまったのかもしれない。ちなみにアンカレッジのコードはANCで、私たちは「アンク」と呼んでいた。

 

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