◆ 眠れぬ夜

私は「怖い話」が嫌いである。

修学旅行で就寝時間を過ぎてから始まる恒例のその手の話は、だいたい耳を塞いでいた。テレビで特集する「霊がどうの・・・」という番組は避けるし、映画好きな私も、夏になると増える「ホラーもの」というのはまず観ることはない。

しかし、いわゆる私の中で「怖い」に分類される映画でも、「よい作品」と言われるものはあるので、そうなると観てみたくなるのは人情。「シックス・センス」などはいい例である。

このような場合は必然的に「レンタルビデオ」になるまで待ち、いざ借りてきてそれを観る時は、昼間の明るいうちに家族を巻き込んで鑑賞、となる。というのも、単純な私はつねに、
「これは映画で自分とは違う世界で起こっていること」
という客観的な状態を作っておかなければ、映画の中へ自分が入り込んでしまい(読書をしているとその物語に入り込んでしまうのと同じ)、ますます怖い思いをしてしまう確率が高いからだ。

そして、必ず座布団(もしくはクッションなど)を抱えながら画面をみることになる。勿論それは怖い場面を見ないようにするための役割を果たすのだけれど。

きっと「可愛い」と男性から思われている女性達は、そのような場面になれば彼氏に抱きついて・・・、ということもできるのだろうけれど、残念ながら私の頭の中ではそうしている自分が格好悪い構図と映ってしまっているので、そのような場面は皆無である。(このような性格故に、損してきたことは結構あるような気がする(笑))

それなら、
「怖かったら目をつぶればいいんじゃないの?」
とお思いになる方もいらっしゃるかもしれない。でも、人間の心理なのだろうか、「見たくない」という気持の一方で、どうなっているのか知りたい、という厄介な感情が湧いてくる。これを「怖いもの見たさ」という。そして後者の力に負けてしまうと、私の場合ほぼ百パーセントの確率で、それは「後悔」に繋がる。それどころか、その場面が強烈だったりすると、寝る間際にその残像に悩まされ、おびえて寝られなくなることがあるので、私としては避けたい。だから、怖いものを見る時、「座布団」は私にとって必須アイテムとなる。

例えば家にいるときには必ず誰かがいるので、例え怖くて眠れない状態になったとしても、一人ではない分、何とか気を落着かせることはできる。

しかし、仕事先、特に海外のホテルでそういう状態になると、これはもう最悪であった。

乗務をしていた頃の私は、太平洋路線(つまりアメリカへ向かう便)での時差が特にひどく、なかなか熟睡ができなかった。しかも、どういうわけかロサンゼルス滞在のときに寝られない、あるいは寝ても真夜中に目が覚めてしまうことが頻繁にあった。

ある日を思い起こしてみよう。
昼くらいにホテルにチェック・イン。なるべく現地の時間にあわせようと軽く昼食をとってから部屋へ入り、シャワーを浴びて二時間ほど昼寝。目覚ましで何とか起きて太陽を浴びに散歩をして、夜は先輩達と食事。そして、何とか夜は十一時くらいに眠気がやって来て、ベッドに入る。
「これで朝まで寝ていられれば最高なんだけど」
と思いつつ眠り始めるけれど、ふと目が覚めてしまう。ベッドサイドにある時計を見ると「二時」を指している。(このパターンは多かった;;)

午前二時。いわゆる「丑三つ時」。怖い話にありがちな時間である。

そんなことを意識しだすと自分の単純な想像力はあっという間に膨らみ、自分のいるそのホテルの一室がたちまち恐怖の部屋に変貌する。

少しでもそんな気持を紛らわすべく、部屋の照明をすべて点ける。そして、テレビのスイッチもオンに。なるべく怖いことを考えないようにする。でも、そう言うときに限って隣の部屋で変な物音がする。しかも、アサインされたその部屋ほ、昼間は気にならなかったけれど、調度品がモダンな「黒」で統一されていることに改めて気づいたり。そして、ルームライトだけになると妙に怪しい雰囲気をかもしだしている。
「もし、出るとしたら外人のお化けかなあ、日本語通じないだろうし・・・」
そんなふうに、ますますくだらないこと(当時の私にしてみれば重大なことなのだけれど)を考え始めてしまう。

そんな雰囲気を壊してくれそうなのは、テレビだけだった。

アメリカではチャンネルが沢山あり、中には映画のリバイバルを一日中やっていたりする。それを観ていれば気が紛れるのではないか、というささやかな期待感もあって、ベッドサイドに置いてあったリモコンを手にした。あいにく手元に番組表がなかったので、あてずっぽうにチャンネルをまわし、映画らしきものをやっているところで、ひとまずチャンネルを固定。

画面はきれいな森の中。きっと中世のお城の話か何かでしょう、と思った瞬間、
「ギャア〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
突然、凄まじい悲鳴を上げて逃げ惑う女性を、包丁片手にものすごい形相の男性が追い回しているシーンが始まった。しかも、その男性はいわゆる「普通の人」ではない。私は慌ててテレビを消した。これではますます怖くて寝られなくなる。

かといってこのままだと、またこの部屋は異様な雰囲気に包まれてしまうような気がする。
「チャンネルをかえれば・・・」
いつもの座布団のかわりに枕を抱えつつ、リモコン片手に再びテレビをつける。そして、チャンネルをバタバタと換える。そして、真夜中に似合わない明るいコマーシャルを流している番組をようやく見つけた。これで当分大丈夫かな・・・と思った瞬間、何やら聞き覚えのあるテーマ曲が。
「チャラララ、チャラララ、チャラララ・・・・」
なんと「アメージング・ストーリー」が始まるところではないか;;

あとから気が付いたことなのだけれど、どうもこの午前二時台のテレビ番組は、「怖い内容のもの」が多いようだ。映画ばかり流しているチャンネルもそういう傾向らしい。その理由はわからないのだけれど。

ちなみに、他にあったのが、スタイルのいい女性が出てくる「ちょっとHな感じのもの」あとは「お笑い路線のもの」。そう言えば、日本の深夜番組も同じような傾向があるけれど、何故だろう?

こうして、私は眠れぬ夜を過ごすことになる。そしてひたすらカーテンに光が射してくるのを待つ。まるで、ドラキュラに狙われたヒロインが、夜明けを待ち焦がれるように。

そしてようやく辿り着いたテレビの画面は、「通販」。二十四時間商品を紹介し続けている番組で、電話で直ぐに注文できる、というあれである。これなら怖いものは出てこない。

「これであなたも素晴らしいボディーラインに!」
なんていうのを長時間見ていると、すっかりその気になり、妙に欲しくなってしまう。

「これさえあれば湿気とはサヨナラ!食べきれなかったポテトチップもこれを使えばこんなにパリッと保存できます。」
なくても困らないのだけれど、すべてのキャッチコピーが、「わざとらしい」から「もっともらしい」に変化していく。

「これであなたもお掃除上手。余分な手間なし、しかも安全に汚れが取り除けます!」
今度はクリーナーの宣伝。だんだんこれらの商品がなくては生活できないような気持にさえなってくる。
でも、アメリカに住んでいないので注文ができないのは不幸中の幸い(?)だった。

ふと気が付くとようやく空が白んできている。さすがに瞼が重い。頭の中では「怖いもの」にかわって「通販の商品」が駆け巡っている。
「あんなのがあったらいいだろうなあ・・・」
そんなことを思いながら、やっと眠りにつき、私の時差ボケもますますひどくなっていくのであった。

 

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