スチュワーデスへの道

 「スチュワーデス志願者」になるまで(前編)

 

 短大生活の二年間は本当に忙しい。
入学してようやく受験勉強からも開放され、どうにか学生生活にも慣れてきたころ、「就職」の二文字がいきなり重くのしかかってくるからだ。

 その就職活動のガイダンスは、すでに一年生の後半から始まっていた。
まさにバブル期もこれから絶頂期に向かっている最中。
「短大にいけば必ず就職は出来る」ような時代だった。
だから、勉強しに大学へ行く、というよりは就職するために大学に行くといった風潮が少なからずあったような気がする。

 二年生になって、会社から「会社説明会」が設けられるようになった。
各学部の掲示板にその説明会の知らせが貼りだされ、希望者は指定された日時に決められた教室へ集合する。

 私が最初に出席したのはあるコンピューター会社のものだった。
特にその業界に就職を希望していたわけではなかったが、
「会社の人間が学生に対してどのような話をするのか」
という興味からであった。

 教室に一歩入ると、コンピューター会社の説明会とあって男子学生が多かった。
何となく落ち着かない雰囲気のなか、ドアが開いた。
さて、一体どんなことを話してくれるのか・・・。

「君たちはぁー!社会に出るからには・・・」
その「君たち」という言葉が「おまえら」に聞こえるような強く、厳しい口調だった。
何だか会社の説明を受けているというよりは、お説教をされているような感じである。

 社会人というのは数年もやっていると、こんなに偉そうになってしまうものか。
会社の概要などの話はあったものの、常に言葉の節々には
「甘ったれた考えではうちの会社ではやっていけないんだよ。」
という挑発とも脅しとも取れるようなニュアンスが混じっていた。
一体この会社の何が彼をこんなに熱くしてしまうのだろう?
話が終わるころには、もううんざりとしていた。

 冗談じゃない、こちらからお断り。
そんな気分だった。
「社会人になること」は「偉そうな人」になることのような気さえし始めていた。

 それにしても、大学に進学するまで「いかにして進学するか」くらいのことしか頭になかった人間が、
「どの会社に入って何をしたいのか」
といきなり聞かれたところで答えられるはずがない。
ましてや、当時の女性の生き方は「働く」ことがあたりまえになっていたものの、依然として、
「社会人になることは条件の良い結婚相手とめぐりあうための手段」
という考え方が堂々とまかり通っていたのも事実である。
(そういえば「三高」という言葉もこのころしきりに使われていた。)
だから、知名度の高く、社会的にも「優」のつく会社は人気だった。
会社側も四年生大学卒より短大卒のほうを多く採用したのは、おそらく、多少若い「腰掛け」のほうが人の入れ換えも早いし、男性中心の社会にはもってこいだったのであろう。

 さて、ある日のことである。某航空会社の説明会がある、という掲示があった。
ただし、出席できるのは、「強くこの職種を希望している者」に限る、とある。
いわゆるスチュワーデス志願者、ということだ。

「スチュワーデスになるのが私の夢なの。」
そんな友達がいた。
彼女は同じクラスで、普段から一緒にお昼を食べたりしているうちの一人だった。
「だって、海外に行けるし、制服も格好いいし・・・・」
皆さんの言うところの「花形の職業」、いかに憧れの的であるかを彼女は熱っぽく語った。
確かに言われてみればそのとおり。女性なら誰しも一度は憧れるはずである。
「話だけでも聞きにいこうよ!」
その友達の誘いもあって、まるで新入生が部活の見学に行くような軽い気持ちで、私はその会社説明会に出席することにした。

 説明会当日。出席者は30人近くはいたであろうか。
さすが「志願」している人たちとあって、雰囲気がいつもとはちがっていた。
一通り会社の説明を受けたあと、質問の時間がもうけられた。
普段の授業ならけっして手が挙がるような場面ではないが、「説明会も就職試験のうち」とばかり複数が挙手している。ほとんどがこれから行われる会社訪問(実際には一次試験)についての説明だったように思う。明らかに意識して彼女達は質問していた。

 その中でも特に印象的だったのは、会社訪問の当日の服装について質問した学生だった。
「あのぉ、会社訪問は、華美にならないように紺のスーツなどで、と言う指導を受けたのですが、今日のこの服装などはいかがでしょうか。」
思わず教室中の視線が彼女に集まる。
心なしか軽くポーズをとっているようにも見える。
彼女は白地に小さな黒の水玉のあるツーピースを着ていた。
私はあっけにとられた。
「よろしいんじゃないでしょうか。」
その会社の方はさらっと答えた。しかし、それだけでは、と思ったのか、
「場所をわきまえていただいて、ご自分にあったものを着ていただければと・・・」
と付け加えた。

 会社側の方にどのような印象を彼女が与えたのかはわからない。
しかし、その教室にいた私たちの頭には「アノ、水玉の子」として彼女ははっきりとインプットされてしまった。(実際、彼女の名前がわかるまでそう呼ばれ続けた。)

 なるほど、そういうアピールのしかたもあるのか、と私は呆れる一方で感心してしまった。

 スチュワーデス志願者とは、ただ者ではないかもしれない。

 

後編につづく

 

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