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◆スチュワーデスへの道 〜 入社までの間(その3)
羽田でのアルバイトも残すところあと二週間ほどになった。
すでにカレンダーは4月になっており、新入社員が続々と社会に出ている。
アルバイト先にも新入社員が配属されてきた。彼らとは「同年入社」となるのだが、その姿は正に三ヶ月後の私自身だった。
「よろしくおねがいしますっ!」
同じグループに配属されて来たのは、二人の男性の新入社員だった。女性の新入社員(スチュワーデス訓練生)は私がこのアルバイト終了後に配属になる、ということだった。
私はその新入社員とプロパーの様子を遠巻きに見ながら、この職場に来たばかりの自分を思い出していた。少なくとも「新しく職場に来たもの」としての扱いは同じはずだった。彼らが上司から注意されることなどもほとんど同じであった。でも、何かが違っていた。性別とかそんなことではなかった。
「将来のこの会社は彼らにかかっている。」
そう期待されるところが大きかったのである。
年間を通じて退職していく数の多いスチュワーデスとは違い、「終身雇用」が当たり前の当時の日本で、男性社員は「珠玉の人々」でなければならないこともうなずけた。
また、彼ら自身にも、
「自分たちがしっかりしなくてどうする」
と言う意気込みが感じられた。
実際、スチュワーデスとして採用される時にはそれなりの「難関」はあった。
しかし、私たちの突破してきた「難関」と、彼らのそれとは全く異なる「質」のものだったのである。
さて、ある日のこと。機嫌の悪い上司が新入社員の一人を呼び止めた。
その新入社員の男性はいわゆる役者にいるような「ハンサム」な顔立ちで、職場でも女性のファンが多かった。
上司は仕事上のちょっとしたミスを指摘した後こう言った。
「おい、髪を染めているんじゃないのか。社会人にもなってそんなチャラチャラして・・・」
明らかに言いがかりであった。
相手が上司ということもあって、彼は口答えも出来ないでいる。
気まずい雰囲気の中、正に鶴の一声ともいうべき声が響いた。
「染めてるんじゃないわよね、それって潮焼けよねえ?」
プロパーの女性だった。
すると、近くにいた他の女性社員も口々に言った。
「そうよね、確かウィンド・サーフィンするからそれで焼けちゃったのよねえ?」
こうなるとさすがの上司もそれ以上彼に文句を付けることはできなくなった。
もし、ここで何か言えばそこにいる女性社員を敵に回すことになる。と言うことは、下手をするとほかの女性社員をも敵に回しかねない状況を作りだしてしまう可能性があった。「女性のおしゃべり」ほど怖いものはないのである。
こうして新入社員は救われた。
よく、「美人は得をする」と言うことを聞くが、「美男だって得をする」のである。やはり人間は「見た目」が肝心なのだ、とその時は痛感させられたような気がした。
ちなみに彼は「客室系」で採用されており、いずれは私たちと乗務して仕事をすることになる立場である(このように「客室系」で採用された社員は、地上の業務と客室乗務を数年ごとに交互に勤務する)。ということは、ある面では私たち女性客室乗務員に望まれている「何か」が彼にもあるはずだった。そして、運のいいことに、少なくともお姉さま方ばかりの職場で上手にやっていくことの素質を、彼は生まれながらにして持っていたのかもしれない。いずれにしても女性ばかりの職場には、計りしれない独特のものがあるらしい。そんな雰囲気が私にも少しずつわかるようになっていた。
しかし、その一件がおこってからの更衣室で、「彼」の話題を耳にすることが多くなった。そんな話題をしているのは決まって数人の女性プロパーだった。そこには先日、新入社員をかばったプロパーも加わっていた。
「ねえ、ここのところ、彼ちょっと仕事のミスが多くない?」
「そうなのよね、このままだとちょっとね・・・。」
「なんだか彼女と別れたらしいわよ。それが原因かも」
「でも、そう言うことで仕事をミスするようではねぇ」
「それに、ちょっと私たちに甘えてない?」
「うん、そんな感じがする」
「そろそろビシッとしないとね。私たちの仕事が増えちゃうわ。」
いつの間にかお姉さま達の寵愛は一転し、彼は失恋の痛手も癒えないまま、総攻撃を受けることとなった。
私のアルバイト期間終了は目前であったので、果たしてその後の彼が、どのような扱いを、お姉さま方から受けるようになったのかは定かではない。私はただ、自分の置かれている状況に一刻も早く彼が気がついてくれることを願うばかりであった。
たしかに人は「見た目」が肝心。
けれども、それに甘えているとやがて痛い目に合う。
人間やはり公平に物事が運ぶようにできているのかもしれない。
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