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スチュワーデスへの道 〜 入社後のプロセス
7月、いよいよ入社である。
しかし、入社したからといってすぐにあのスチュワーデスの制服を着て訓練に入れるわけではない。それまでにはまだいくつもの段階がある。おそらく各航空会社によって乗務に至るまでの過程は違うので、参考までに、私のいた会社でのその過程を紹介しておきたいと思う。
入社する前に、まず、自分が「国内線」と「国際線」のどちらを乗務するのかを知らされる。私達7月入社の社員はまず「国内線」を乗務した後に訓練を受け、「国際線」へ移行するとの説明があった。しかし、入社が私よりも2週間早い人達は始めから「国際線」を乗務するとのことだった。このように、結果的に「国際線を乗務する」ことには変わりはないとはいえ、どちらを乗務するのかは個人の希望ベースではなく、あくまでも会社の都合で決められてしまう。
入社をしてからまずあるのが「入社教育」。
おそらくどの会社に入っても真っ先にこれをするのではないだろうか。
内容としては、
「あなた達は社会人になったのだから、こういうことは最低限できないと困りますよ」
といった事柄の教育をうける。敬語の使い方、電話の取り方など。勿論、会社がどんなことをして利益を得ているのか、その歴史なども勉強する。そういえば、社歌もこの頃覚えた。退職するまでに3回くらいしか歌わかなったけれど。
そして次に行われるのが「地上研修」。
その期間は入社時期によってまちまちで、会社の説明ではだいたい3ヶ月から8ヶ月。当時の採用は新卒だけでも300人以上いるので、一斉にその訓練に入るのは難しい。教室や教官の数も限られている。それに現場での受け入れ態勢などを考慮すると、その数は決まってきてしまう。だから、まず入社の時期を分ける。そうすることで、会社は人材の確保はできて、コストはかからない。わかりやすく言うと、7月入社の場合(私のこと)だが、通常の年度始まりは4月なので、入社までの3ヶ月間は「待機」させられているという状態になる。採用はされているけれども「雇用」されているわけではないので、入社するまでの間のお給料は出ない。だから会社としては3ヶ月分のコストがかからない、ということになる。
さて、その地上研修を行う理由は、
「いくら客室乗務員だといっても、飛行機の中のことしか知らないというのはおかしい。同じ社員なら、飛行機を飛ばすためにどんな仕事をしているのか実際に体験しておいたほうがよい。また、地上と空の交流のためにも・・・。」
ということらしい。
ちなみにこの「地上と空」というのは「地上職員と乗務員」と置き換えることができる。
(ただ、この研修も会社設立からあるものではないので、その意義に関しても様々な意見がある。しかし、この話はややこしくなるのでここでは触れない。)
だから、私たちのような客室乗務員だけでなく、勿論、飛行機の操縦を担当する「パイロット訓練生」も、期間は短いけれど地上研修はしている。もしかしたらカウンターでニコニコとチェックインしてくれるお兄さんが将来は機長さん、などということもありうる。
次にようやく「客室訓練」、通称「客訓(きゃっくん)」が始まる。
(テレビドラマ「アテンション・プリーズ」、「スチュワーデス物語」ではこれが舞台になっている。)
ここで、「国内線乗務」か「国際線乗務」かでその訓練内容と期間が大きく異なる。「国内線乗務」の場合で3ヶ月、「国際線乗務」だと6ヶ月行われるのだが、それを比較してみると、国際線の訓練は「英語」の内容が国内線のそれに比べてボリュームがある。そして、「リカー・サービス(飲み物のサービス)」「ミール・サービス(食事のサービス)」「フライト・セールス(機内販売)」など他にも国内線と比べて、いろいろとそのサービス内容が違う。つまり、その分知識をつけなければならない事が多いので、訓練期間が長くなる。
そしてこれが終了すると国内線で約2週間、国際線で約1ヶ月のO.J.T.(仕事を通じて行う教育)をしなければならない。飛行機で「訓練生」のバッジを見かけたら彼女達は正にその真っ最中ということなので、優しく見守っていただきたい(ちょっと意地悪な質問をするのも彼女達のトレーニングになるかもしれないが)。そのO.J.T.の間に現場での業務などを先輩に教わり、上司からOKが出てようやくそのバッジをはずして乗務できるようになる。これを俗に「チェックアウトした」という。
ちなみに、国内線から国際線へ移行する訓練はおよそ1ヶ月。先ほどあげた国内線のサービスにはないものの教育を受ける。そしてO.J.T.は最初の2回の乗務のみ、となっている。
しかし、チェックアウトすれば一人前か、というとそうはいかない。
バッジが取れてから約半年、「6 month
check」と呼ばれる試験が待っている。
一通りの業務がこなせるかどうか上司からチェックされ、
「これから客室乗務員として仕事をしていける」
というお墨付きをいただいて、晴れて、
「私は(とりあえず)一人前のスチュワーデスです」
と胸を張ることができる。
ここまででお気づきになったことと思うが、職場で独り立ちをするまでにはかなりの時間がかかる。短大を卒業して4月入社し、地上研修を3ヶ月で終え、国内線で乗務したとして、20歳。一浪の後、四年生大学を卒業して7月入社、地上研修を6ヶ月やり、国際線チェックアウトとなると(もしかしたら)25歳。同じ「新人」と言われても年齢でみるとこんなに開きがある。私は短大卒だったので学校の延長の様な気分で(いろいろな葛藤があったにしても)比較的すんなりその職場に入ることができたほうだと思う。
しかし、チェックアウトの時点で20代半ばと言うのはなかなかキツイ物があるに違いない。
一般企業に務めている同い年の社会人とは少し異なった立場に立たされることになるからだ。
たとえば、一般企業に務めた同級生にはすでに後輩がいる一方で、4年生大学を出てスチュワーデスになった人
は、上司は年下である上に後輩もいない、という事態だってありうる。
女性は多かれ少なかれ、見え張りであると私は思っている。
だからおそらくそんなフラストレーションがたまりそうな状況にも、
「私はスチュワーデスである」
と言うプライドで乗りきっていく人が多いのではないかと思う。
しかし、そんなプライドを押さえつけるべく、こんな言葉がある。
「一期違えば虫けら同然」
この「期」というのは訓練を受ける段階でつけられるクラスの番号のようなもので、一期二十名程になる。
つまり、チェックアウトの時期がちがうと即「先輩、後輩」という縦の関係ができてしまうことを指す。就職試験を一緒に受けて同年入社、と言っても4月入社と7月入社では違うのである。そして、ここでは学歴はいっさい通用しない。東大を出ていようと高卒だろうと、同じ会社の社員。秩序は先輩、後輩で保たれている。今になってよく考えてみると、毎回違うメンバーで機内のサービスを行うような職場は、ある程度縦の規律がきちんとしていないと仕事がしにくいので、あんな言葉ができたのかな、と思えなくもない。
それにしても『虫けら』とは・・・。
と思う一方で、これは職場の人間関係の厳しさをよく表している言葉だとも思う。
(中にはこの言葉そのままに行動する人もわずかながら存在した。そういう人達は、自分の仕事を後輩におしつけたり、「見当違いな態度」を仕事に持ち込んだりするので、いやな思いをさせられることが多かった。おそらく、同じ路線を乗務するグループの中で一番期の若いスチュワーデスが、暗黙の義務としてしなくてはならない「ジュニア・デューティー(junior
duty)」と呼ばれる仕事があることも原因の一つになっているように思う。このことは今後のエッセイで書くつもりでいる。)
さて、私のこの「スチュワーデスへの道」の章もようやく入社するまでに至り、スチュワーデスとして乗務するまでのプロセスの入り口にようやく辿り着いた。これからまた様々なエピソードを書いてゆく予定なので、楽しみにしていただきたい。
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