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スチュワーデスへの道 〜自己紹介
「3分間以内で自己紹介する」
それはつまり、「3分間以内で自己PRをする」ということだった。
面接試験は、試験官3人に対して受験者が4、5人で行われるという。
聞くところによると、「接客」という職業をするのに大切な第一印象のほかに、話し方やその話しを聞いている様子なども細く試験官によってチェックされる、というのだ。
確かに何千人もの学生を面接するのはとても大変なことであるし、審査をする際には時間も状況も一定であるので、公平かつ効率のよい試験のやりかたなのだろう。
さて、この課題にいざ取りかかってみるとまずこの「3分間」という長さで引っ掛かってしまった。
新聞の記事などをゆっくりと音読し、3分間でおおよそどれくらいの文字を話すことができるのかやってみた。
およそ400字詰め原稿用紙で2枚弱、といったところだろうか。
実際は「読む」のではなく「話す」ことになるからもっと字数は少なくてもいいかもしれない。
こうして、ようやく原稿の作成にとりかかる。
とりあえず自分の学校生活を中心に骨組みをたてていくことにした。
当時、私はオーケストラ部でヴィオラを弾いていた。
短大の授業もいくつかの科目を除いては仕方なく授業に参加している様な状態で、
どちらかといえば、勉強しに行くよりは部活に出ることの方に熱心だったような気がする。
週に3回の活動は時としてハードだった。
しかし、結果としてその演奏曲にどっぷりと浸れるのはたいへん心地よいことだったし、大勢で一つの曲を仕上げていく満足感を思うと、とてもではないが他のことをする気持ちにはなれなかった。
とはいうものの、オーケストラのなかでのヴィオラの役割は本当に地味なものだ。
ヴァイオリンや、チェロの引き立て役とでもいおうか。
その地味さは「ヴィオラのための曲」がとても少ないことにも象徴されていると思う。
それなら、なぜヴァイオリンにしなかったのか、と思われるかもしれない。
そもそも私が初めて弦楽器に触れたのはヴァイオリンで、小学校4年生のときだった。
友達と遊ぶことが楽しかった当時は、もちろん楽器の練習などするはずもなく、1年余りでやめてしまった。
そして、高校に入学してからたまたま「器楽同好会」をつくりたい、という先生のお声がかかって顔を出すことになった。楽器の経験がある、といってもたかがしれているわけだが、とにかく人数を集めたかったらしい。
そしてなんとなくその3年間は同好会に在籍するはめになる。
昼休みに先生がレッスンをつけてくださったりして、文化祭にはどうにかこうにか演奏会まで開くようになった。(今思うと、どうやら楽器が好きだったのではなく、みんなで集まって一つのことをするのが好だったのかもしれない。)
そして、演奏会で味わう緊張感と拍手が、なんとなくヴァイオリンという楽器から離れがたくしていた。その高校生活も終わるころ、同好会の顧問の先生がヴィオラで曲を演奏してくださったことがあった。ヴァイオリンよりも一回り大きな楽器なので、もちろん音が低い。何という曲を弾いてくださったのかは忘れたが、
「もし、今後何かの機会で弦楽器をやるようなことがあれば、ヴィオラもいいな」
と思った。
何故なら、ヴァイオリンの音色は私にはいささか高く、下手なせいもあったが、今一つしっくりこない音域だった。
そして、短大に入ってから高校時代に独学ではじめたアコースティックギターを続けようかと「軽音楽同好会」へ足は向いたものの、いきなりロンドンブーツでお世辞にも清潔とはいえないお兄さん達を見た途端、気持ちが萎えてしまった。(当時の私は「オフコース」路線だった(笑))
そうなるとやはりオーケストラ部しかないと、奏楽堂へ向かった。
「練習を見学させていただきたいのですが・・・」
そういうと、なかでも部長さんのようなひとが案内してくれた。
奏楽堂の二階には演奏の練習を見下ろすような感じで椅子が並んでいた。
静寂の中、指揮棒がふり下ろされると同時にオーケストラの音がホール一杯に鳴り響く。
「耳で聴く」というよりは「身体で感じる」感覚に近い。
メロディーにあわせて弦楽器を演奏する人たちの身体が揺れる。
曲と人とが一体になっているような錯覚に陥った。
今までにない音楽の聴き方だった。
練習の切りがいいところで席を立った。
「どうでしたか、何かやってみたい楽器はありますか。」
そう聞かれて、以前ヴァイオリンの経験はあるものの、ヴィオラをやってみたいこと、しかし、短大生のために二年間しか活動できないこと、などを話した。
「初心者から楽器を始める人が多いので、舞台に上れるのはだいたい2年生になってからなんです。でも、ヴァイオリンの経験があるのなら、練習次第ではもう少し早く全体の演奏に加わることができるかもしれませんよ。それに、ヴィオラなら人数が少ないので助かります。」
話をしているうちに私はすっかりその気になってしまった。
そしてその翌週から私はこのオーケストラ部の一員となったのである。
さて、話を戻そう。
「自分の学校生活を中心に」というともう私にはオーケストラ部のことしかなかった。
おそらく面接を受けるときに、自信をもって唯一話すことができることだろう。
では、そこからどのように「自己PR」につなげていったらよいだろうか。
きっと試験官にしてみれば、いわゆる「人と話すのが好き」「人の世話をやくのが好き」
などという言葉は耳にタコができるほど聞かされているだろう。
それならば、ちょっと角度を変えてアプローチすることで印象づけようと思った。
スチュワーデスにまつわる雑誌や本を読んでみると、どうも採用する側としては「協調性」を求めており、そのほかに、
「目上の人ときちんとした言葉遣いで話せるか」
などを面接の時にチェックするようだった。身だしなみその他はいうまでもない。
そんな試験官の希望(いわば会社が必要としていること)を満たすような答えを用意すればいいのだ。
確かに、オーケストラでも協調を求められる。
逆に協調性がなければオーケストラは成り立たないだろう。
そして、その中でヴィオラは目立たない「縁の下の力持ち」のような存在である。
では、スチュワーデスのサービスがオーケストラだとしたら?
スチュワーデスを演奏者に例えたら?
・・・・・うん、これでいこう。
こうして自己紹介の文章を組み立てていった。
あとは原稿をまえに時計とにらめっこである。
「アナウンサーってこんな感じなのかもね。」
などと思いながら3分間以内に話せるように練習した。
そして、ついに「会社見学」の日を迎えた。
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