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スチュワーデスへの道 〜 入社までの間(その1)
就職も決まり、卒論も提出した。
短大での行事は残すところレセプションと卒業式だった。
私の入社は7月だったので、学校を卒業しても少し時間がある。
(会社からは待機を単に命じられているだけなので、勿論お給料はもらえない)
さて、入社するまでをどのように過ごそうか。
そんなことを考えていたある日、会社から電話があった。
「羽田(東京国際空港)のグランドホステスのアルバイトをやってみませんか。期間は2ヶ月程になると思いますが・・・。」
渡りに船とは正にこのことか。あまりよく考えもせず、そのアルバイトをすることにした。
通常、入社後の地上研修先は出身地に近い支店や空港へ配属されているはずだった。実際乗務し始めると、特に地方出身者は、なかなか親元へ帰ることが出来なくなる。そこで、せめて研修の時くらいは帰りやすい場所で、というちょっとした会社の配慮であった。しかし、私は東京出身なのに、何故か配属先は「千歳空港(北海道)」。でも、研修に入ってからする仕事は羽田でのアルバイトのそれと同じなので、ひと足早い予習ができるくらいに思うことにした。
レセプションで顔を合わせた友達(同じ会社の内定をもらっている)とも、そのアルバイトの話になった。やはり、みんなアルバイトをすることにしたそうだ。
そして、2月の中旬になって「アルバイトをするため」の教育が始まった。
羽田空港へ行き、空港内にある教室に入ると同級生が何人かいた。彼女達はひと足早く教育を終え、翌日からO.J.T(仕事を通じて行う教育)が始まるのだそうだ。結局、私を含めて3人が一緒に教育を受けることになった。
まず、接客の心構えから始まって、チェックインのしかた(航空券の見方、荷物の預かり方など)、搭乗口での搭乗券のもぎり(当時は手で半券をちぎっていた)、ミートのしかた(到着した飛行機で客室乗務員とのやりとり、到着ロビーでの業務、その他預かった荷物のトラブルの対処の仕方など)、そしてチェックイン業務に関連するコンピューターの使い方などを教わった。なにしろ生徒は3人しかいない上に、覚えなければならないことがかなりの量なので、居眠りもしていられない。教育期間は一週間くらいだっただろうか。
そして、グランドホステス用の制服も支給されて、いよいよO.J.Tにはいる。
グランドホステスの勤務は、飛行機の出発、到着にあわせてシフトが組まれている。(いわゆる「シフト制」)例えば、この羽田の場合は、A,B,Cというふうに三つのグループに分かれていて、早番二日・遅番二日・休み二日というサイクルであった。原則的に、早番は6:00〜13:00,遅番は12:30〜19:30となる。
(出勤時間は確かだが、業務終了時間はちょっとあいまいである。)
一緒に教育を受けていた人達とグループはばらばらになり、ついに現場での仕事が始まる。一緒に働く人達はプロパー(正社員)のほかに短グラ(短期グランドホステス:いわゆる短期の契約社員)と呼ばれる人たちだった。そんな中での私たち内定者アルバイトの立場は実に微妙だった。いずれは正式に社員にはなるものの、アルバイトという身分には変わりはない。そしてなにより、短グラの人達のなかにはスチュワーデスになることを希望している人が多かったことは、結果的に気を使う要因となった。
実際現場に入ってみると、一種独特の緊張感に包まれる。
「制服を着て空港を歩く」
そのことだけで、いろいろと質問される。つまり、制服イコールエキスパートという目で見られるのだ。大学を卒業したとはいえ、気持ちはまだ学生気分が抜けていない。それどころか、社会人としての自覚を持つにはほど遠かった。だから、「一人前として見られること」は予想以上にストレスとなっていく。学生の時と制服を着たときのギャップが大きすぎるのである。実際「働く」ということはどういうことなのか、社会人になるということはどんな責任を伴っていくものなのか、まだまだわかりたくもない年ごろだったのかもしれない。「何事も一生懸命にやる」それくらいしか能がなかった。
少しずつではあるが、仕事に慣れてきたころ、大阪行きのチェックインにアサイン(割り当てられること)された。500余りあるエコノミーの座席を二人ないし三人くらいで限られた時間の中にチェックインしなくてはならない。この路線はかなり特殊であるので、必要以上に緊張していた。というのも、大阪線はビジネス路線であると同時に、とっても急いでいるお客様が多い(大阪到着後に会議がある等)。それに芸能人の利用する比率も高いのである。ということは、必然的に座席のリクエストも多くなる。
今ではある程度座席の事前予約はできるようになってきているようだが、当時はごく限られたお客様しかそれはできなかった(前方通路側で降機の際に開くドア近くの座席というのは特に人気である)。
通常、チェックインを機械任せにすると、前方の「窓側」からうまっていく。すべての、窓側がうまると次に「通路側」、それが終わるとそれらの「間の席」がうまる。そして、座ることの出来るお客様が限定されている。特に注意が必要になる座席(非常口の座席など)は、特別な操作をしないと取れないような仕組みになっている。つまり、座席のリクエストが多いことは、
「いろいろなことを考えながら機械任せにしないで座席をとる」
ということを要求されるのだ。
大阪行きのカウンターに立って、いよいよお客様がいらっしゃる時間になった。私としてはその作業が遅い分、お客様に丁寧にかつ間違えのないようにチェックインしようと決めていた。せめて確実に座席指定をすることが自分として精いっぱいの仕事の仕方だったと思うし、他のプロパーの方達にも迷惑がかからないようにしたかった。
自分なりに一生懸命にチェックインをしていたが、男性のプロパーから
「もっと早くやって」
といわれた。早く、といったって私にはもう限界だった。
「後ろに並んでいるお客様を見てみろ!」
はっとして顔を上げると長蛇の列になっていた。搭乗時刻は迫っている。もう私の対処の仕方ではどうしようもなかった。
「もういい、どけ」
そういわれて、私はチェックインの機械から遠ざけられた。
なんとかそのプロパーのお陰でお客様のチェックインは時間内に終えることが出来たものの、一生懸命やっていただけにかなりのショックだった。
「どうもすみませんでした」
仕事が一段落ついてから私は頭を下げた。迷惑をかけたことには変わりはない。しかし、心の中では納得がいって謝ったわけではなかった。その様子を見て、彼は言った。
「確かに、お客様に対して丁寧に接することは大切なことだ。しかし、チェックインをするには時間が限られている。お客様を待たせるというのはいいことではない。スピードもサービスのうちなんだ。」
自分が相手の立場に立って接客している、と思い込んでいた私には考えもしないことだった。
今までの接客は、もしかしたら自己満足でしかなかったのかもしれない。
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