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◆ 客室訓練(国内線)〜 プロローグ 五ヶ月余りの地上研修を終えた私たちは、いよいよ「客室訓練」(略して『客訓』)に入ることになった。その第一日目は開講式。制服を支給されているわけではないので(ましてや採寸すらしていないし)、みんな入学式の感覚でスーツ姿で顔を揃えた。 入社教育以来初めて顔を合わせる人たちがほとんど。地上研修を経験したせいなのだろう、心なしかみんな顔つきが以前より大人びて見える。たった五ヶ月だったけれど、それぞれ社会人としての自覚がその間にしっかりと根づいたのかもしれない。 入社式と同じように訓練所の一室で開講式は始まった。段取りもほぼ同じ。上司からの言葉などの後に、さっそく各期の担当教官が発表になった。 「教官」といっても、歴とした現場の先輩。この三ヶ月の訓練期間を終えてしまえば、また現場へ戻っていく。そして、もしグループが教官と同じならば、訓練所を出た時点で直接の上司となるのだけれど、今の段階ではあまり先のことを気にしないほうがいいのかもしれない。 さて、開講式の後、各期ごとに教室に分かれて、いわゆる「ホームルーム」のようなものが始まった。 「教室」・・・小学校から大学までそれは恐らく共通したものに違いない。 「もし授業中に寝てたらわかっちゃうね;;」 果たしてこのガラスの仕切りが、「監視」のためなのか「訓練生としての自覚を持たせる」ためなのかその理由は定かではないけれど、私たち訓練生の気持を引き締めるのには効果があるかもしれなかった。 女子校に通ったことのある方はだいたい想像がつくだろう。男性のいない女性の園は、時として「恥じらい」という感覚が欠如してしまうもの。だから、せめてこうした「見られている」という意識を持たせることによって、少なくとも教室でおおっぴらにお化粧を直したり大あくびをしたりなどは、不用意にはできない環境を作りだすことは、ある意味大切なことなのかもしれない。こうした、 「では、これからの予定をお知らせします」 月曜から金曜まで訓練部の作ったカリキュラムで授業が行われる。予定表、といっても手元のプリントを見ると、「時間割」といったほうがしっくりきた。授業内容は勤務に関すること、サービスのこと、身だしなみのこと、などのほかに専門的な知識を付けるための授業が目白押し。その合間を縫って、制服の採寸や施設の見学、身体検査。特徴といえば、毎週月曜日に必ずテストがあること、それから、週に何度かいわゆる、「体育の時間」があることだった。毎日当番を出席番号順に二人ずつ分担して行うというのもあったけれど、私たちにしてみれば、今さら当番だなんて、という感じだった。 「当番にあたった人は、授業が始まる前に担当の教官へ準備するものがないかどうか聞きに行ってください。場合によっては教室が変わったりしますので。勿論、英語教官は例え日本人の教官だったとしても、英語しか話しませんから、英語で対応してください」 国内線から乗務し始める私たちは「英語」の重要性を切実に感じてはいなかった。実際、サービス内容が国際線ほど多くないこと、ましてその飛行時間は比較にならない、そして何より「国内線」で外国人をサービスする機会が極めて少ないことを、私たちは地上研修中に知ってしまっていた。現場でのそんな中途半端な経験が、ますます私たちをそういう気持にさせたのかもしれなかった。 「それでは、今後の予定はこれくらいにして、出席番号順に改めて自己紹介を二分弱くらいでしていただきます。私も皆さんと初対面ですし。地上研修のことなどもふまえてお話してください」 そういえば、地上研修中にある先輩が言っていたことを思い出した。 正にそのお言葉通り。この調子で行くと、社員でいるかぎり、ことあるごとに自己紹介をしなければならなくなりそうだ。ただ、こういったことはある程度「慣れ」ということもあるらしい。実際、以前よりはみんな緊張する度合も低くなってきたようだし、余裕がある人は多少のユーモアもふまえて話せるようになっていた。正に「習うより慣れろ」の域かもしれない。 こうして訓練は始まった。これから三ヶ月の間に身に付けておくべきことは盛り沢山。そして今度ばかりは学生の頃のように「苦手」「不得意」では済まされない。何しろ、お給料をいただく身なのだから。 さて、これからの訓練所での生活はどのようなものになっていくのだろうか。
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