◆ 人に見られる職業ゆえの 〜下着の話

空港をさっそうと歩く姿。
スチュワーデスの最初の印象はそういう所から始まる。いや、厳密に言うと、通勤している間に「この人はスチュワーデスなのではないか」という人の目にさらされたときから、彼女たちの仕事は始まっているのかも知れない。

「格好いいスチュワーデス」という印象を崩さないこと。
こんなことも彼女たちの仕事の一部分になってしまっていることは言うまでもないと思う。

いわゆるその航空会社の顔なわけだから、結構会社からも厳しく言われる。ちなみに私の勤めていたところでは、「身だしなみチェック」が度々行われ、髪形からマニキュアの色、制服を着たときに持つバックの果てまでチェックが行われることがあった。だから私たちは必然的に身だしなみに気をつけ、オフの日でもなんとなく人目を気にしていたりする。(自意識過剰と言われるかも知れないけれど、そういった「普段の姿」は知らないうちに「仕事をする姿」にも影響する。)ちなみに銀座などを歩いていると、同業者はなんとなくわかってしまうものなのだが、もしかしたらそういった意識がその人独特の雰囲気となって、
「もしかして・・・(同業者なのでは)?」
と思わせるのかもしれない。

やはり無意識に「キャビン・クルー」(「スチュワーデス」という言い方はしなくなったのでここからはそう呼ぶことにする)であると意識するのは自他共に「制服」を着たときではないか。そして、その制服をより格好良く着こなすために私たちは頭を悩ませている。そんな悪戦苦闘ぶりを少しずつ紹介していこうと思う。

そこで、今回は「下着の話」。

というのも、下着は身体の線を作る土台であり、その土台がよければ(出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる状態)、必然的に制服を格好良く着こなせるということになる。

そして、その一方で下着にはいわゆる身体を保護するという重要な役割があり、それは健康にもつながる。彼女たちの仕事は、気圧や気温など、必ずしもベストな状態ではない。その上、基本的には立ち仕事、力仕事である。制服は決められているものだし、それ以外で身体を守るには、やはり「下着」は軽視できない。

 

ギャレーで食事をしているときのことだった。
カーテンの外、つまり客室は映画上映中のため、真っ暗な上に静まり返っている。最初のサービスが終わって私たちも何となくホッとする時間である。そんなとき、カーテンがさっと開いた。
「私、ちょっと変わったと思いませんか?」
後輩が入ってくるなり、少し胸を反らせるようにしていう。そんな、急に言われても取り立てて変わった様子はない。
「何?わからないけれど・・・」
と私が言い終わらないうちに、彼女は私の片手をつかんで自分の胸に押し当てた。私がびっくりして言葉を失っていると、
「胸、大きくなったと思いませんか?」
とにっこりしていうのだ。制服のベストの上からでは見た目はわからないけれど、たしかに大きい。
彼女と私は「胸が小さいこと」ではいい勝負であったので、「いつのまに?」という気持がないわけではなかった。

「た、確かにそうね・・・」
私がうろたえながらそう答えると、つかんでいた私の手を放してクスクス笑いはじめた。
「じゃ〜ん!!」
そういって彼女が胸から取り出したのは、何とドラヤキだった。それはブラウスの胸ポケットに入る大きさだったので、うまい具合にパッドの役割をしていたのだ。まったく・・・。
「お客様からの差し入れなんです。これ、Kさんの分です。でも、これ胸ポケットに入れると結構いいですよ。Kさんも胸がないから入れておくといいですよ。あ、でも一つじゃ意味ないか。」
「あのねえ・・・」
と言って思わず私も笑ってしまった。すると、
「そういえば、いい下着屋さんがあるらしいんですよ。行ってみませんか?」
と言う。確かにクルーの間では、下着専門店の話題がたびたび持ち上がっていたし、私も興味が無いわけではなかった。

「それってホディースーツみたいなものを扱っているの?」
「いいえ、そういうのだけじゃなくて普通の下着を扱っているんです。全部外国製らしいんですけど。なんだか、それを付けると胸のサイズも大きくなるらしいんですよ」
彼女は目をキラキラさせながら話している。
「大阪にあるらしいんですけどね。今度ステイがあるじゃないですか。行ってみましょうよ。ドラヤキ入れなくてもいいかもしれないし」
と言ってにっこり笑った。まったく余計なお世話である。
とは思ったものの、結局その後輩に連れられて下着屋さんへ行くことになってしまった。

大阪の小さなビルの一階にそのお店はあった。取り立てて構えたふうではなく、気をつけていないと通り過ぎてしまうくらいの何でもない普通のお店だった。通りに面してガラス張りになっているけれど、下着がちらほらディスプレーされているだけ。ドアを開けて入ると、いらっしゃいませ、という声に続いて店員さんが、
「お名前はいただいていますでしょうか」
と言う。
「初めてなんですけれど・・・」
と答えると、
「こちらへどうぞ」
と、二階へ案内された。

「では、まずサイズを測らせていただきます」
後輩と私はそれぞれ店員さんに付き添われて試着室でバスト、ウェスト、ヒップを測ってもらう。それが終わると、テーブルをはさんで下着の話を聞いた。

それにしても肝心の下着は何処に置いてあるんだろう?二階にも下着が並んでいる様子はない。
「身体に合った下着を身に着けることは身体にいい。また、その下着で身体の補整は可能である」
というのがそのお店の人の話だった。つまり、私のイメージしていた、
「体型を整える=ボディスーツ」
というイメージとは全く逆の発想だった。体型は人それぞれ。だから一人ひとりカウンセリングをしてカルテを作っておき、来店するたびにサイズを測り、体型にあったものを薦めているとのこと。

「お客様ですと、こちらはいかがでしょう?」
といって何枚かテーブルの上に置いた。どうも奥に下着を収納してある棚があるらしい。
「体型が安定してくるとレースのものなどをお薦めできるのですが、お客様の場合、まだ始めですので・・・」
そう言って薦められたのはクリーム色のブラジャーと白のもの。ショーツはそれらの色に加えてベージュを薦められた。たしかに華美なレースなどは一切着いておらず、ごくごく普通のブラジャー。そのカップには取り立ててパッドがついているわけではなく、ショーツに至ってはお腹もお尻もすっぽり包み込むようないわゆる「ババシャツ」ならぬ「ババパンツ」のようなものだった。

「下着を正しく付けなければ効果は出てきません。それに下着に頼るのではなくそれをとっても体型を保てることを目標としているのです。」
そういって正しい下着の着け方を教わった。

ブラジャーは少し前かがみ気味にしてから胸をカップの中にいれること。しかも、背中の方からお肉を前にかき集めて。つまり、その店員さんの言葉を自分なりに解釈すると、できるだけカップの中にお肉を寄せておけば、「自分は胸に来るお肉だったのかしら?」とカップに寄せられたお肉はそう思って結果的にバストは大きくなる、ということらしい。ショーツはお尻のお肉がはみ出さないように、ブラジャー同様きちんといれること。
「でも、私の場合痩せているのでお肉そのものがあまりないのですけれども・・・」
私がそういうと、店員さんはすかさず、
「いいえ、そんなことはありません。とにかくかき集めてください」
という。しかし、ないものは、ないのである。
「必ず正しい位置に下着のラインが来るようにしてくださいね。そうでないと効果が出ませんから。」
結局薦められるまま、物は試し、と後輩も私も購入することにした。ブラジャーとショーツを二枚ずつ。お値段は二万円近くになってしまった。こんなに高い下着の買い物は初めてだった。
「でも、これでドラヤキいらなくなるわけですから」
そういって後輩は満足げだった。私は半信半疑。

結果はともかくとして、見かけは普通の下着と代わらないのに、どういうわけかつけ心地がよい。それ以来下着はできるかぎり仕事で海外へ行ったときに買うようになった。

確かに半信半疑にその下着を購入した私だったけれど、値段が値段だっただけにそれを身に付けているときの自分は不思議と背筋がいつもよりも伸びているような気がした。下着は人から見えるものではないものだけに、
「高いものを身に付けている」
という意識は一種の優越感となる。もしかしたらブランド物を一度買ったらやめられない心理はこういうものなのだろうか。

後日、この下着屋さんの話のほかに、
「20万円の下着を買ったわ〜!」
という先輩の話を聞いた。それはいわば、「ボディースーツ」であるらしい。
「身体にぴったりなものだから、脱ぎ気が大変なのよ。でも、さすがに仕事の時は着られないわね」
とのことだった。

というのも、乗務中は結構身体がむくんでくるし、下手にキツイ下着を着ていると気分が悪くなってしまうことも考えられるからだ。

「でも、乗務以外はなるべく着るようにしているの。そのせいかちょっと体型がかわってきたかな。」
とその先輩はその後もその「ボディースーツ」について熱く語っていた。

余談になるけれど、飛行中の外気はマイナス50度ともいわれている。キャビンウォッチでドア近くに座っていると、その外気が足下に流れてきてとても冷える。かといって毛布を巻くわけにもいかないので、「見た目」以外でも下着には気をつかうことになる。

「キャビン・クルーは格好良くて当たり前」
その期待を裏切らないためにも、彼女たちは見えないところにお金も時間もかけているのである。

 

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