◆ Crewの憂うつ:その2 会話

お客様との会話のやり取りは、冷静に考えてみると結構笑えることがある。それらは、実際に自分がそういった経験をしていなくても、あるときは会社に寄せられた苦情として、またあるときは笑い話として、私たちの知るところとなる。

例えば、地上研修中での出来事。私と同じグループだった短期グランドホステスと、お客様とのチェックイン時の会話。
(当時の国内線ではまだ喫煙席が存在していた)

座席の希望を聞く際に、
「機内で煙草はお吸いになりますか?」
とグランドホステス。
「いや、すいません」
と、お客様が答える。しばし沈黙の後、
「どうして客である私があんたに謝らなきゃならないんだ??」

このお客様のご機嫌も悪かったのが災いしたのだろう。それ以降、私たちは、座席の希望をお客様にお聞きする際には、
「禁煙席と喫煙席とございますけれど・・・」
と言うような聞き方をするように指導をされた。
やり取りだけ聞いていると考えすぎのように思えるけれど、お客様ご自身が真剣である以上、こちらも真面目に受けなければならないし、まして、その突っ込みを褒めたりしてはいけない。

まだ私が乗務していたころ、早朝便で、箱に入ったサンドイッチとプリパックの飲み物を機内でサービスしていた。その当時のクレームの一つとして語り継がれている話。

飲み物がジュースではなくて紅茶が搭載されたことがあったときのこと。お客様から思い掛けないつっこみが・・・。
「早朝なのに『午後の紅茶』を出すとは何事だ!」
(その紅茶パックの製品名が『午後の紅茶』だった)
嘘のような本当の話である。

このように、カウンターでも機内でも、普段通りのサービスをしているはずなのに、お客様の気分によっては思い掛けない展開になることもある。単なる八つ当たりか、と思われることでも、
「申し訳ございません」
と、まず頭を下げなければならないのは接客業の辛いところである。

ちなみに、この言葉がなかったばっかりに、男性のお客様に胸倉を捕まれて怒鳴られた先輩がいた。状況を見ていたわけではないので、詳細はわからない。しかし、他の人から聞いたところによると、彼女がクレームを受けたときにまず口答えをして、自分の正当性を説いたことにお客様はますます腹を立てたらしい。たまたまその便には男性のアシスタント・パーサーが乗務していおり、彼が間に入ることでその場はおさまったらしいのだが。

実は、普段から不条理なことで、彼女からきついことを言われ続けていた私は(当時グループの中で一番下で、年齢も若かったため、格好の標的になっていたようで)、
「さもありなん」
と思っていたけれど。(勿論、他の先輩も私の意見と同じだったのだが)
これは、最初の一言でいかに人の気持を損うことになるかといういい例だろう。

それにしても、明らかに先方が悪いとわかっていても、謝らなければならない状況は非常にストレスがたまる。接客業の宿命と言ってしまえばそれまでだけれど。

「オーダーしたものがいつまでたってもこない」
「禁煙席を希望したのに喫煙席にされてしまった」
「和食が食べたかったのに、ないとは何事だ」

確かに自分が不手際な場合もあるけれど、これらの多くの原因は他の人の尻拭いである事が少なくない。だから本当は、
「私が頼まれたわけじゃないのに(頼まれた後輩は何をやっているんだか)・・・」
「そう言うのはチェックインしたときにその場で地上職員に言ってよ」
「だからメニューに『ご希望に添えないこともございますのでご了承ください』って書いてあるのに。飛行機にも搭載の限界があるんだってば;;」
と言たいこともある。しかし、同じ会社の人間が携わっていることは、一つにまとめて、
「申し訳ございません」
と、まずは頭を下げるしかない。いわゆるこれを「連帯責任」という。

私も現役時代に、NON JAPANESEのお客様から面と向かって座席について文句を言われたことがあった。チェックインをした職員は、身体が大きなお客様だから、と気を利かせてその座席をアサインしたのだけれど、そこはスクリーンが非常に見えにくい場所だった。そして、あいにくの満席。座席のアレンジのしようがない。

「あの席はスクリーンが見えにくいから、最初にお客様へお断りしてきて」
と、その時の責任者に言われて私はそのことを説明しに行くと、
「××航空(米国系)はこんなアサインの仕方はしなかった。座席だってもっと広くて、crewだって気が利いたサービスをしてくれるし・・・」
とネチネチと私に愚痴りはじめた。
「そんなにその航空会社がいいのなら、うちの飛行機に乗らなくても結構!」
私は握りこぶしを作りそうになるのを押さえながら、心の中でそう思っていた。勿論、少なくとも日本の航空会社ではそう言う口の聞き方をしてはいけないので、ぐっとこらえて言われっぱなしになっていた。接客業の辛いところである。

「申し訳ございませんが、満席ですし、どうぞご協力を・・・」
そう言うのが精いっぱいだった。

結局そのお客様は座席の事では不満を言いっぱなしだったけれど、いざ離陸してサービスが始まると、さっきの愚痴はどこへやら。その上、飛行機から降りるころにはニコニコしていた。全く、なんなんだか。

後から考えてみると、どうもこのお客様、ゴネればどうにかなる、と思っていたらしい。といっても、状況としてどうしようもないことはあるし、それより何より自分としてはそういう「ゴネ得ねらい」の人間はろくなものではないと思っているので、決められた範囲以上のことはしなかったけれど。それに、同じ料金を払って乗っていただいている他のお客様に示しがつかない。

さて、このような話は「フライトでの出来事」と言うことで、ホテルへの移動するときのバスの中や、ステイ先での食事で暴露されることになり、あるときは酒の肴になる。

「どうしてこんなことを言われなくちゃいけないんですかねえ;;」
と言う愚痴になることもあるけれど、そこで話をすることによって、ケーススタディとなり、思わぬ勉強になることもあるので侮れない。ベテランの先輩になると、
「そう言えば以前こんなことが・・・」
という話をしてくれることもあるので、今後の参考にもなる。

そんな仕事の愚痴をみんなでこぼしていたあるとき、
「でもさあ、やってみたいよね、・・・」
と一人の先輩。
「コールボタンがなるでしょう?そうしたら、くわえタバコしながら、『なんか用?』とか、そう言う大きな態度で応対する(笑)」
こういったたぐいは勿論ご法度だけれど、まあそれくらい腹の立つことも多いということになろうか。

サービス向上のためのクレームは大歓迎。でも、機嫌が悪いからと言って八つ当たりされるのはこちらも勘弁してほしい、と言うのが本音でもある。しかし、所詮クルーも人間。機嫌が良ければ普段のサービスのほかに、気の利いたことをしたくなるもの。逆に考えればその心理を利用しない手はないとも思うのだけれど。

こんなふうに書くと、「スチュワーデスはおだてて使えってこと?」と、思われてしまいそうだけれど、おだてる必要は全くない。何故ならフライトの主役はあくまでもお客様なわけだし、それを彼女達も心得ているのだから。いっそうのこと、漫才ができるくらいのユーモアのセンスがあれば、ぎすぎすしたやり取りをしないでもすむのかな、と思ったりもするけれど、これは不謹慎というものだろうか。

 

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